響ノ章
陸戦
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のもいる」
脳内に浮かんだのは、この作戦開始時に整列した時の事だ。あの場に居た何人かが、もう戦線復帰出来ないほどの重症を負った。考えてみれば私がほぼ無傷であったことが奇跡的だったのだ。普通なら、死んでいる。
「それに、生きているのも今現在という事だ。私も怪我人の運搬に携わったが、かなり危険な者も居た。それに……柏木提督は、手遅れだったが」
「……と、いいますと」
「私が駆けつけた時点で既に重体だった。腹部の損傷は戦艦に撃たれたものだ。砲弾は左脇腹より侵入し背中側へ抜けている。炸薬が炸裂しなかっただけ即死しなかったが、お前たちの目から見ても……」
「治療は不可能ですね。意識があったかすら怪しい」
「意識はあった。既に目は殆ど見えていない様子だったが」
「提督殿は、何と」
「ある伝言を、伝えてほしいと。後は任せるとも」
「成る程、では、貴方が」
「ああ。今は正式ではないが、近日中にでも私がこの鎮守府の提督となるだろう」
私は足を動かした。震える足を一歩ずつ。向かうは話す二人のもと。そうして、二人の姿を見た時、私は提督を殺した人の姿を見た。
「白木、中佐」
伊隅鎮守府に配備されていた、中佐。私が伊隅鎮守府に居る時から面識がある。
「響」
「提督は、提督は」
白木中佐は私の前へ近づいてきて膝を折った。そのせいで、柏木提督の遺体は目に見えない。
「響、鳳翔、お前たち艦娘への提督からの伝言だ」
伝言? 遺言に他ならないだろう!
「提督は」
「響ちゃん」
両肩に、後ろから手を置かれる。気づけば、鳳翔さんが私の後ろに立っていた。
「柏木提督は戦死した。今現在のところ、この戦闘の唯一の戦死者だ」
「最期は」
「戦艦と銃一丁で戦い、即死と変わらない怪我と引き換えにこれを撃滅した。誇り高き戦士だ。意識の低下が見られたが、最期介錯を私に頼み、私が射殺した。今際の際、君たちに伝言を残した。それを聞いてほしい」
「……それは、何?」
自らを守れなかった艦娘達へ、彼は何を残して逝ったのか。後悔か、憤怒か、それとも悲哀か。
「ありがとう、と」
目を見開いた。戦艦との一騎打ちという大立ち回りを演じ、そうして部下に介錯される際、残した言葉がそれか。
「他には?」
「君たちに向けた言葉はそれだけだ」
「はっ……はははは」
乾いた笑みが溢れる。よもや、守られるはずの人間が、守れなかった者達に宛てた言葉がそれか。守れなかった者達は一人も死んではいないのに。
「ははははははは」
闇夜に、私の笑い声だけが悲しく響いていた。
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