忘却のレチタティーボ 1
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きゃわっ」
男性の背中を見送ってたら、腕を握ったままの室長に強く引っ張られた。
急に引っ張られたら転びますってば!
「じ、自分で歩きますから、手を離して! 痛いです……っ」
足を止めて踏ん張る私に振り返り。
え? あれ?
なして、そこで落ち込む?
「すまない」
いやーっ!
やめて!
なんか知らないけど、仔犬みたいにいじけないで!
反応に困る!
本当に、いったいどうしたんですか、室長!?
「えーと、その……。ゆっくり、行きましょう?」
私が職場用の笑顔を向けると、室長は少しだけ顔を上げて、頷いた。
この人、誰。
ひと睨みで凍死させちゃう上司殿はドコ行ったあ〜!?
「あ、ちょっとここで待っててください」
その後。
斜め後ろから黙々と付いて来る男性を道路の脇に残し。
街の一角にある小さな花屋さんへと駆け込む。
いつもの白百合を一輪買って店を出ると。
見慣れた顔が微かに微笑んで、私を待っていた。
なんぞ?
「行きましょう」
家路を急ぐ人達の間を縫って、街外れへ向かう。
そこにあるのは、住民達から忘れ去られた旧教会。
何年も前に、街の中心地で新しい教会が建てられたから。
ここにはもう、誰も来ない。
この辺り一帯は、近く再開発計画が進められる予定らしい。
私には遊び場だったし。
思い出がいーっぱいあるから、失くしたくないんだけど。
そうも言ってられないのが、社会事情って奴なのよね。
「…………」
教会の入り口に山と積み上げた白百合の上へ。
買ってきた白百合を置いて両手を組み、片膝を突いて目蓋を閉じた。
しばらくの沈黙の後、立ち上がって振り返ると。
上司殿が眩しすぎる笑顔で私を硬直させた。
いや〜……。
夕陽が綺麗だなあ〜……。
なんて、現実逃避するのが精一杯でした。
顔面凶器って、良い意味でも通じるよね?
え? ダメ?
他に適切な表現が見つからないんだけども。
「……ありがとうございました」
「いや。今日はもう出歩くなよ」
空が濃い紫色に染まる頃。
我が家の玄関先で上司殿に頭を下げると。
彼は本当に何事もない感じで、そのまま引き返していきました。
なにがなんだか、さっぱりだ。逆に怖い。
突然の路線変更は勘弁してください!
「ふはーっ!」
家に入るなり、玄関扉を背もたれにして、ずるずると座り込む。
疲れたよーっ。
お菓子の宴にする気も削がれたよーっ。
でも、何も食べないってのも、体に悪いしなあ。
サラダだけでも、軽くつまんでおくか。
「むう。先に入浴
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