忘却のレチタティーボ 1
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いるのは、過去の書類の整理。
在庫の統計を取ったり、入庫管理の書類を順番通りに分かりやすく並べ、確認したい人の為に素早く提出して、また元の位置に戻したり。
要するに雑用だけど、これはこれで大変なんだぞ。
隅から隅まで走って五分は掛かる広大な倉庫の中から、薄い紙切れ数枚を短時間で的確に見つけなきゃいけないんだから。
倉庫内の大体の配置を、あらかじめ覚えておく必要があるわけよ。
しかも、普段は閑古鳥の巣窟なのに、いつ何が、どれだけ必要とされるか判らないせいで、倉庫周辺からは長時間離れていられないっていうね。
他人と関わるのが得意じゃない私には、とてもありがたい部所だけどさ。
屋内の全力疾走はキツいー。
せめてもう一人は増やして、室長さまー。
二人じゃ大変だよ、やっぱり。
「昼前に増えた書類は、ここにまとめておいた。これとこれは……」
「はい。では、そちらは」
「こっちは俺が引き受けておく。終わったら管理室で待機だ」
「了解しました」
上司殿の丁寧な指示を受けて、倉庫への搬入を開始する。
両手で抱えてふらつく程度の量が、ズラッと並んで五つ分。
午前中に比べれば格段に少ない。
書類要請が来なければ、今日は比較的楽そうだ。
来るなー。来るなー。
来なかった。なんという幸運。
「お疲れ様でした」
「ああ」
黒革の椅子に腰掛けて天井を見ている室長に一礼し、狭い管理室を出る。
室長は私に振り向きもせず、いつも通り、返事だけしてくれた。
この仕事人間、仕事以外は大体放置してくれるから助かる。
暇 時々 激務な職場でも長続きしてる理由は、こういう居心地の良さにあるのかも。
怒ると、すっごい怖いけどね!
さすがに、殴る蹴る怒鳴るの三大暴力は飛んでこないけどさ。
触ったら切れそうな氷色の目で、静か〜に睨まれてごらんなさいよ。
凍えるから。
絶っ対、凍え死ぬから。
ああ神様、どうかお願いします。
上司殿に割り振った美しい容姿の半分を、なかったことにしてください。
綺麗な人がキレるとね? 怒られるほうの寿命が減るんですよ。
大根をすりおろすようにジャカジャカジャカジャカ削がれていくんです!
ちなみに、室長の髪の色も、私と同じ灰色系。
だけどこっちは、くすんで汚いネズミ色。
あっちは、鏡みたいな湖面の銀色。
なんだかねえ、もう。
ふこぉーへぇーだああぁーっ!
手抜きすんな神様ぁああーっ!
「…………むなしい」
実際は、美しい容姿になりたいわけじゃない。
自分の容姿に不満があるんでもない。
満足してもいないけど。
不満のフリ。
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