暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
忘却のレチタティーボ 1
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 何か足りない。
 何をしてても、空っぽなの。

 ね、神様?
 この空っぽに入れ忘れた『何か』があるんじゃないですか?
 ここが空洞のままで感謝とか口にしても、すっごい空空しいっていうか。
 かなーり虚しいのです。

 自分で探してこいやーっ!
 と仰るなら、手掛かりくらいは生活圏内に置いといて欲しかったな。
 圏外には、ちょっと行けそうもないんだ。
 生活維持とか、そんなこんなでさ。

「いいなあ……」

 噴水のきらめきを背負った美男美女を見て。

 うらやましいのは、外見だけじゃないのだよ。
 寄り添う姿っていうか、表情?
 楽しそうに、うっとり目を細めちゃってまあ。

 誰かを好きになるって、どんな気分なのかな?
 甘いとか苦しいとか、情報だけなら耳年増。
 実体験? 無い無い。
 恋愛に興味がありますか? と尋ねられれば、そりゃ、ありますけども。
 な〜んか、警戒が先に立っちゃうのよね。
 私なんかに近寄るとか、何の企みがあるんじゃ、フシャーッ! って。

 あ、人間相手だけじゃないぞ。
 これ以上はないってくらい、心惹かれるものに会いたいなあ。
 無理だなあ。
 これだって、結局は自分の心の問題だもん。

 で、延々と同じことを考え続けちゃうわけだ。
 我ながら不毛よのう。

 しかし、空白だ空っぽだ虚しいわって自覚してるのも実は凄いのかしら。
 前にあったわけでもないのに、無い物を『無い』と認識してるんだよね。

 うーん。
 もしかして、そこを埋めるきっかけくらいには触ってるのかな?
 どうなんだろ。

「休憩時間は終わりだ、ステラ」

「うにゃ!? し、室長……っ」

 急に、背後から肩を叩かれた。
 ビックリして椅子から立ち上がると、横に回り込んできた上司殿が、私の右手をぐわしっと掴んで職場に連行する。

 ああー……。
 また、薄暗い室内での書類整理が始まるのかあー。
 さらば、愛しのぐうたら時間。



「ごめん、昨年の未返却分請求期限って、いつだった?」
「昨日よ。補填費用の割り出しと在庫の問い合わせはこっちでやっとくわ」
「了解。任せるわ」

 国立書蔵館東方支部は、今日も今日とて大忙し。
 同期の女性三人が、飴色の木製机の上にぺらぺらの薄い紙を重ねまくり、あーでもない、こーでもないと奮闘中。

 受付事務はお客様直結のお仕事だから、見た目が綺麗で上品なお嬢様方が集められてるけど、お客様直結だからこそ、とんでもない激務なのよね。
 疲労が理由の辞職率も、他の部所と比べて桁違いって話。

 必死な彼女達を横目に、上司殿と私が向かうのは、書蔵館で最奥の部所。
 同じ事務の仕事でも、私達二人が任されて
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