第5部 トリスタニアの休日
第5話 運命の密会
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言った。
「気にするな」
しばらくして……。
ぽつり、ぽつりと雨が降り始めた。
小さな雨粒が窓を叩く。通りゆく人々が「ち!雨だ!」「降ってきやがった」などの悪態が聞こえる。
アンリエッタは震えだした。
「どうした?」
小さな声でアンリエッタは呟いた。
消えてどこかへ行ってしまいそうな、そんな声だ。
「……お願いがあります」
「なんだ?」
「肩を抱いてくださいまし」
震えるアンリエッタの手から、握った杖が落ちる。
杖は床に当たって、乾いた音を立てた。
「どうした」
「雨が怖いのです」
その言葉で…・・、あの夜も、雨が降り出したことを思い出した。
アンリエッタはその雨を利用し、蘇ったウェールズと巨大な水の竜巻を作りだし……、それでウルキオラを斃そうとしたのだ。
ウルキオラは黙ってアンリエッタの隣に腰かけ、肩を抱いてやった。
アンリエッタはがたがたと震え続けている。
「お前……」
「私のために……、何人も死にました。……私が殺したようなもの。わからない。私にはわかりませんわ。一体どうすれば赦しが請えるのか」
「誰も赦さないだろうな」
「そうですわね。私は……、自分と、私にそうさせた人たちが、そうにも赦せないのです……。雨音をきくと、そんなことばかり考えてしまいます」
アンリエッタは目を瞑ると、ウルキオラの胸に頬をよせた。
ウルキオラの手をしっかりと握りしめる。
雨音につれ、震えが一段と激しくなる。
そこには、王女でも女王でもない、ただの一人のか弱き少女がいた。
誰かがそばにいないと、立つことも出来ないような。
だが、冠を被らされている。
戦争を指揮する杖を握らされている。
哀れなものだと思った。
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