第5部 トリスタニアの休日
第5話 運命の密会
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大通りにでたアンリエッタは、くすっと笑った。
「どうした?」
「いえ……、すいません。ちょっとおかしかったものですから。でも、愉快なものですわね」
「自分に気づいてもらえないことがそんなにおかしいか?」
「ええ、それなりに」
アンリエッタは微笑した。
「だが、お前の顔を知っている奴に見られたら、アンリエッタだと気付かれるぞ」
「しっ!」
「なんだ?」
「一目のある場所ではアンリエッタと呼ばないでくださいまし」
「周りに聞こえるような声ではない」
「それでもです。そうね、短く縮めて『アン』とでも呼んでください」
「まあ、いいだろう」
「私もあなたのことを『ウル』と呼ぶことにいたしますわ」
また頓珍漢なあだ名ができたな、とウルキオラは思った。
「ウル、急ぎましょう」
「ああ」
微笑んで、アンリエッタはウルキオラの腕に自分の腕を絡ませた。
夜も遅かったので、二人はとりあえず宿をとった。
粗末な木賃宿である。
案内を去れた階の部屋は、スカロンが用意した宿が天国に見えるほどのボロい部屋だった。
ベッドの布団は何日も干されたことがないのか妙に湿り、部屋の隅には小さなキノコが生えている。
ランプは煤を払っていないのか、真っ黒であった。
「まさかこれで金をとれるとはな」
アンリエッタは気にした風もなく、ベッドに腰かけた。
「素敵な部屋じゃない」
「俺はそうは思わんがな」
「そんなことありませんわ。少なくともここには……、寝首をかこうとする毒蛇はいないでしょう」
「まあな」
アンリエッタは微笑んだ。
ウルキオラは部屋に置かれた椅子に腰かけた。
がたがたのその椅子は、ぎしっ!とヘンな音を立ててきしむ。
「本当にこんな部屋でいいのか?」
「ええ。ちょっとわくわくするわ。市民にとっては、これが普通の生活なのだから。不謹慎かもしれないけど」
そういって可愛らしい仕草で足をぶらぶらさせる。
なるほど、やはりルイズとあまり変わらない年齢なだけはある。
子供のような仕草が時折見られる。
とりあえず、部屋がどうにも暗いので、ウルキオラは霊力によりランプに火をつけた。
突然ランプに火がついたことに、一瞬驚いたアンリエッタだが、それがウルキオラだと理解するとすぐに落ち着きを取り戻した。
ランプの明かりを、アンリエッタはじっと見つめて頬杖をつく。
そんな風にくつろぐアンリエッタは、やはりウルキオラの目には女王として見えなかった。
しかし、現実として女王なのである。
しかし、女王というにはまだ若すぎる。
威厳より、清純が勝る。
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