39部分:第三十九章
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すよ」
「そのカードを引くのは御主じゃろう?」
悪戯っぽく速水を見上げて言った。目も顔も笑っている。
「全く。時として酷な占いじゃな」
「私の占いは外れませんので」
「ただしわかりにくい時があるけれどね」
沙耶香はこう言って今回の事件の速水の占いを皮肉った。
「それが困ったことかしら」
「まあ、そちらも修行じゃ」
老人は笑みをたたえ続けたまま言う。
「何がどうなのか解していくのもな」
「そうですね。そちらも」
「では私は」
「御主は色の道か。それとも魔の道か」
「両方ですよ」
沙耶香の答えはこうであった。
「その二つがないと。人生とは実に味気ないもの」
「そうか」
「その二つがある場所こそ私の居場所なのですから」
「ではその二つが揃った時にまたな」
「ええ、その時まで」
身の周りに何かを出してきた。それはあの五色の薔薇の花弁であった。それで自身の身を包む。
「御機嫌よう」
「またな」
「そして私も」
速水はカードを取り出した。それは星であった。その瞬きの間に身を隠す。
「また御会いする時まで」
「少しは彼女を振り向かせるのだぞ」
「努力します」
「私も」
沙耶香はそれに応えて最後に笑った。笑みを残して薔薇の中に消えていった。速水もまた瞬きの中に。
「行ったな」
「はい」
最後に残った老人の言葉に野島が応えた。
「次に会うのを楽しみにしておくか」
「そうですね」
二人は口の端だけで笑っていた。その前には。薔薇の香りと星の残り光が微かに残っていた。だがそれも風の中に消えてしまった。
黒魔術師松本沙耶香 薔薇篇 完
2006・8・16
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