巻ノ八 三好伊佐入道その二
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「そしてじゃ」
「はい、そしてですな」
「そのうえで寺まで行き」
「清海の弟に会って」
「お話をしましょうぞ」
六人も応えてだった、そのうえで。
一行は山に入った、草木は深く崖も多い。
その山の中でだ、幸村は言った。
「思った通りにな」
「この山はですね」
「相当に」
「深い」
草木も何もかもがというのだ。
「崖も多いしのう」
「その崖もです」
「急でしかも深いですぞ」
「落ちればそれこそです」
「命がありませぬ」
「信濃にもこうした山はあまりない」
幸村は自身が生まれた国のことから話した。
「凄い山じゃ」
「獣も多いですぞ」
ここでだ、由利が気配を察しつつ述べた。
「あちこちに気配がします」
「確かに。まさに獣の気配は」
根津も少し目を鋭くさせて言った。
「あちから。息を潜めつつも」
「するのう」
「うむ、熊に狼にな」
「蛇も猿もおるな」
「猪もな」
「猿には気をつけねばな」
海野は猿と聞いてこう言った。
「その中で最も危ないかも知れぬ」
「左様、猿はな」
「あれでかなり凶暴じゃ」
穴山と望月も海野の言葉に頷いて言う。
「すばしっこく悪食でな」
「喧嘩っ早い生きものじゃ」
「その通りじゃな、熊や狼、猪は誰もが気をつける」
幸村も言う。
「蛇もな。毒がある故」
「しかし猿は違う」
「左様ですな」
「凶暴でしかも」
「そのことを知らぬ者が多いですな」
「拙者も猿の凶暴さは知っておる」
やはり幸村は知っていた、猿のそのことも。
「あの連中は群れを作り歯や爪で襲って来る」
「そのすばしっこさも合わせて」
「実に凶暴ですな、奴等は」
「山にいる連中の中でも」
「とりわけ厄介です」
「その通り、熊や狼は実は案外大人しい」
猿に比べればかなりだ。
「猪もまだましじゃ、蛇も臆病じゃ」
「しかし猿は違いますからな」
「向かってもきます」
「あんな厄介な連中はいません」
「山で一番危険です」
「だからじゃ」
それでとだ、幸村は己の家臣達に話した。
「猿に最も気をつけようぞ」
「左様ですな、そういえば」
清海は山の右の方を見つつ述べた。
「あちらの気配が乱れております」
「そういえばな」
確かにとだ、幸村も清海が顔を向けた方に自らも顔を向けてそのうえでこう答えたのであった。
「あちらのな」
「何でありましょうか」
「寺はどちらじゃ」
「丁渡です」
「あちらか」
「まさかと思いますが」
清海は首を傾げさせつつ幸村に話した。
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