浅き夢見し、酔いもせず
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はならない。雪蓮でさえ甘いと冥琳は知っている。孫呉最高の軍師が背負うモノは、余りに過酷で大き過ぎた。
ゆるりと手を上げるだけで指示を飛ばす。手足のように動く兵士達は彼女と共に戦ってきた古強者たちばかり。
「お前は董卓が作る世界を信じた。私は雪蓮が作る世界を信じている。ただそれだけの違い、立場が違っただけ。“もしも”お前達董卓軍が我らの立場だったなら、そして我らがお前達の立場だったなら……私が言っていることをお前は口から諳んじる」
牙を剥くように唸り、声を震わせた。
聞こえていない一人語り。届くわけも無い理論。どちらもの言い分に付け入る矛盾と、貫き通せる理由がある。
出来ることなら智者として、真っ向から言葉の刃で斬り合いたいモノだ……そう冥琳は思う。
――お前の、そして荊州の平穏を奪ったのは我らだ。しかし謝るつもりはない。
研ぎ澄ました刃のような視線がねねを射抜いた。
飛将軍が飛び出した後に出てきた敵は練度が段違い。一つの指示間違いさえ許されないギリギリの戦。
――乱世を生き抜こうと言うのなら……
彼らが宿す想いに敬意を表して、冥琳は薄く笑った。
「力を示せっ! 自分が正しいと敵を喰らって証明しろ!」
彼女は王佐。小覇王を大陸の覇者に導くただ一人の輩で、小覇王の代わりに王となっても文句を言われぬ才と器を持っていた。
そして誰よりも矛盾を知っていて、また、誰よりも乱世の理不尽を理解していた。
ぶつかり合う精兵と精兵。血みどろの戦場は醜悪さを否応なしに増していく。
†
まずい、と白蓮は舌打ちを一つ。
戦場の様相ががらりと変わった。
彼女はこの空気を知っている。決して止まることのないモノ達が上げる狂気と同じなのだ。
荊州兵は狂った。目に見えて動きが変わっている。
粗雑であった連携はそのままなのに、一人一人が命すら厭わずに駆けていた。まるで袁家のあの部隊のよう。あの……紅揚羽の張コウ隊のよう。
彼女が受け持った遊撃と攪乱の仕事は難しい。
何処が不利かを見極めて、その都度その場を援護しなければならない。
戦況把握は確かに高いが、朱里と冥琳による指揮の動きでなんとなく何処に動けばいいのか分かるのがありがたかった。
ただし、目の前の敵の動きは衰えず、敵兵を減らそうとすればするほど孫呉の被害が増えて行くばかり。
白蓮の騎馬隊には目も呉れず、敵は我さきにと孫呉の紅い鎧を目指し続けるのだ。
狂った兵士は恐ろしい。それは白蓮が誰よりも知っている。
――どうすればいい? この狂気を覚ますにはどうすれば……
このまま戦っていては孫呉の被害が大きくなり過ぎる。なにせ、敵は全滅もお構いなしに向か
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