浅き夢見し、酔いもせず
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、いつでも彼女は一回たりとも見やしない。
「……行く」
胸を手で押さえながら、ねねは引き裂かれそうな叫びを上げた。
「死にたくなければ道を開けるのです! 敵がいようと構うな! 飛将軍の刃は、邪魔する者を敵味方問わず切り裂きますぞ!」
幸運だったのはその周りが飛龍隊だったこと。
ねねの命令が飛んだ瞬間に、彼らはなりふり構わず道を開けた。
一寸の間も待たずに、大陸でもただ一頭の赤い馬が嘶き……戦場に一陣の暴風が吹き荒れた。
「ぅぅ……れんどのっ……れんどのぉ……」
ぽとりと大地に沁み込んだ涙の雫は、小さな少女の慟哭と共に。
†
僅かな空気の変化さえ見逃すまいと、冥琳の神経はいつも以上に研ぎ澄まされていた。
兵士の一挙手一投足全てが見えるような感覚。こういった時はいつでも勝利を収めてきた。
しかし……言い知れぬ不安が胸に去来してもいた。
敵の顔付きが変わった。雄叫びを一つ聞いて、そして無音の中で何故かよく聞こえた少女の声によって。
――陳宮や荊州兵にとって、我らの不幸は当然の報い。そう思うのは人として当たり前のことだ。
冷めた頭で不安を隠しながら思考を回す。
乱世は慣れ合いでは無い。人が幾多も死に、夢が幾つも破れて行く。
この乱世が誰かの幸せの為の茶番だというのなら、きっと冥琳も雪蓮も、そのモノを許せない。兵士であっても、民であっても、誰であっても同じだろう。
自分達は生きている。人々が命を賭して戦っている。それはなんの為だ? 与えられるだけの幸福の為か?
否……一人一人が慕う主の元、作り出される未来を信じて戦っている。それは何処の誰でも変わらない。
だからこそ、冥琳はねねの言葉を呑み込みつつも、正反対の想いを宿して切り捨てる。
「お前は我らが攻めて来なければと言うがな……そんなモノは女人の戯言だろうに」
鋭く光る眼差し、眼鏡をクイと持ち上げた。
「手を差し伸べた程度で変えられるのなら変えていたさ。他と手を繋ぐ程度で変わるのならこの世界はどれだけ優しいことか。
我らが求めるのは孫呉の永劫なる平穏だ。他に食い荒らされぬように力を付けなければ生き残れない。それがこの大陸の常であると……お前も軍師ならば分かっていたはずだろう?」
ジクリ、と胸に刺さった楔が軋む。蒼髪の上の魔女帽子を思い出す。
――私だけは忘れるなと言ったな、鳳統。杞憂だよ。敗者である私はお前よりも知ってる。信頼は大切だ。それでも、友であろうと他国や同盟国であろうと利用しなければならないのが“国家”というモノなのだから。
甘い幻想に絆されることは無く、彼女だけは氷の上を歩くかのように冷たく国を想う。
誰かが厳しくなくて
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