浅き夢見し、酔いもせず
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るしかない。
気迫も、想いも、全てが荊州兵と孫呉の兵士には差がある。それを埋めるにはどうすれば……弱者は強者に縋るしか無くなる。
幾多の目、目、目がソレを見つめた。
何故お前は後ろに居るのだと、まるで責め立てるかのように。
大きすぎる力を持つものが後ろで見ているだけなら、ソレを責めずにはいられないのが弱い人間の性。悪感情さえ向け始めた兵士達に、ねねは苛立ちから声を上げた。
ただし……悪辣で、残虐な笑みと声を携えて。静かな声は、不思議と兵士達の耳にも響いた。
「……そんなに死にたいなら死ぬがよいのです」
――民を愛しているというのなら、自分一人だけで、頸でも括って死ねばいいモノを。
心の中で矛盾に毒づき吐き捨てる。
所詮は戦に理由を求めている時点で、お前など矛盾の塊でしかないのだと。
言の葉には想いが宿る。彼女は消えかけていた心の炎に対して、何が一番の起爆剤となるかをよく理解していた。
「“お前達さえいなければ”荊州の平穏は守られたというのに」
――お前達さえいなければ、皆で幸せに暮らせたというのに。
涙が溢れそうな程に昏い怨嗟の叫びが魂を揺さぶる。
あの陽だまりを奪ったのはお前達だ。暖かい微笑みも、意地っ張りな優しさも、男勝りな笑い声も、飄々とした猫なで声も、そして……やっと人になれた優しくて弱い少女も……
「お前達のせいでっ! ねね達は大切を失ったのですっ!」
音が止む。まるで彼女が操ったかのよう。三つ重なる音の真名を持つ彼女の声が、戦場の轟音を掻き消した。
ギシ、ギシ、と拳が握られる。
ケダモノに堕ちていた男も、少女の気高さに忠を誓った男も、薄緑色の飛龍の叫びに心を揺さぶられた。
思い出すのは自分達の平穏。何が欲しかった? 何が大切だった?
――ああそうだ。あいつらのせいだ。
たった一人の少女が人を狂わせる。たった一人の少女の憎しみが兵士を狂信に堕としていく。
深くて昏い感情の奔流が、その戦場を呑み込んだ。
すっと、少女が指を立てた。呆れ果てたような表情で、瞳には憎悪と怨嗟を溢れさせ、彼女はぽつりと呟いた。
「孫呉……死すべし。孫策は月輪の敵、飛将の刃にて屠り去らん」
雪蓮は自身の誤算を紐解く。此れはただの一騎打ちでは無く、少女の憎しみを踏み倒す為の戦。
同時に、自身の思惑通りに満足する。なんのことは無い。自分の敵は飛将軍だけで、軍として迫りくる相手はいつだって最愛の断金が屠ってくれるのだから。
ねねが口から零した語句に反応した少女が一人。
先ほどまで人形のように動かなかったのに、雪蓮に向けてゆらりと方天画戟を突き付けた。
唇が僅かに開いた。瞳はやはり何も映さない。隣で今にも泣きだしそうなねねの方を
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