浅き夢見し、酔いもせず
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しかしこの相手には、憐みしか浮かばなかった。
「そう……呂布、あなたは……心を閉ざしたのね」
欺瞞で奪われた大切な主と友。そして戦友との別離と敵対。信じていた心は、きっと裏切りを感じてしまったことだろう。絶望に堕ちる理由は直ぐに思い浮かぶ。
自分達が彼女を追い詰める一端を担った。それなら陳宮の憎しみにも納得できる。悪龍は其処をより深く染め上げたに違いない。
近しいモノの喪失は哀しく辛い。人の後ろ暗い感情を増幅させる。
少しだけ笑いそうになった。
なんという堂々巡りだろうか。自分達は悪龍を憎んで、過去の行いから荊州の人々は自分達を憎んで、今親を殺された孫呉の子供達は荊州の人々を憎んで、終わることのない螺旋は巡る。
止めたいのに、完全には止めることは出来ないと知っている。自分が誰かを憎んでいたから特に分かる。
悩んでも悩んでも決して答えの出ない永遠の問題。人が持つ性と業。
――やったらやりかえされる。いつの時代も、それは変わらない。
棚に上げることはしない。此れは孫呉の責だ。それを背負うのは……誰だ?
内に問い掛ければ自然と答えは出よう。否、誰であれそれは知っている。民でさえ、掌を返して責め立てる。
――此れを背負うのは私。王として全ての責を負うのは私の仕事。この憎しみ、この恨み、この怒り、この業……乱世の理に則って、“力”で無理やり背負わせて貰う。
相応の対価を支払えと、敵は皆考えている。
責任を取るとはそういうこと。現代でも上のモノが首を括るのは変わらない。
だが、今は乱世。それがどうしたと居直るつもりなど無いが……真正面から踏み倒すことも必要だ。そうしなければ、この世に一人の人も残ることは無いのだから。
ぐ、と丹田に力を込めた。
溢れる熱気は冷めない。溢れ出る力は抑えずともよい。心のまま想うまま、自分の力を振るえばいい。
故に雪蓮は笑う。清々しい程に美しい、戦姫の声が張り上がった。
「ははっ、あははははっ! 来い! 天下無双の飛将軍よ! 悪龍を想いし大敵達よ! 虎が憎いか! 憎いのだろう!? ならこの孫策の頸を落としに来い!
愛しい勇者達よ! 偉大なる先代の虎が為し得なかった事を、私と共に紡いでみせよ!」
歌うように言の葉を紡ぎ、舞いのように剣閃が煌く。
「此処は戦場! 想念と魂が交差する生と死の境界線である! しかして我らが魂の場所は何処にあろうか! 踏みしめる大地にっ、頬を薙ぐ風にっ、英霊たちが宿っているぞ!」
雄叫びが天を衝く。虎の叫びのような幾重の声に、荊州兵の前列は腰が引けて行く。確かに立っていられるのは、ねねと共にあった飛龍隊のみであった。
止められるモノは居なかった。段違いの暴力には、同じく段違いの暴力をぶつけ
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