浅き夢見し、酔いもせず
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――ごめん……冥琳。ちょっと無理だったみたい。
自分の限界を超えた上で、受け止めきれる余力など何処にも無く。
それでいいと受け止めている自分を、雪蓮はただ不思議に思った。
駆けだして来る兵士が一人、二人。殺させまいとする荊州兵と、それを止めようとする孫呉の兵。
誰も雪蓮を狙う弓兵には気付いていない。この時だけを、きっとその兵は待っていたのだろう。鋭すぎる勘を持つ雪蓮だから気付けたようだった。
否、もう幾人、未来を予測したモノも居たが……動いたモノは少しだけ。
――せめて暴力を振りまく人形だけは倒しておくから、後はよろしくね。
風が大きく薙ぐ前に、弓の弦が弾かれた。
「雪蓮――――――っ」
「恋殿――――――っ」
同時に声が二つ上がった。
愛しいモノを呼ぶ叫びの声は遠く近く。
冬の空に響き渡る雁の声のような切なさを孕んでいた。
――親しきモノに、愛しきモノに……久遠の平穏が齎されんことを。
願いを込めて剣を振るう。矛盾の果てに辿り着いた場所と知っていても、彼女は満足だった。
――もはや儚い夢を見ることなく、世の諸行無常に酔いしれることもなし。
肉を切り裂く音と、肉に矢が突き立つ音が戦場に一つずつ。
同時に戦場の音が、全て消え失せた。
開けた空に風が吹く。
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