浅き夢見し、酔いもせず
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一筋の光が煌き、引き裂くように彼方のモノを照らし。切っ先が指し示すのは敵として認識した最強の飛将。
切り結ばれた視線とは裏腹に、注がれる感情の全ては深淵の深さに呑み込まれていく。
何も映さない昏い瞳。感情一つ表さず、武神と呼ぶに相応しい強者は微動だにしない。
まだ遠い。まだ遠すぎる。きっとそうだ。だから奴は何も感情を浮かべない。
そう思いながらも雪蓮の脳髄は只々冷えて行く。遠くとも深淵の底を覗き込めば、背に来る悪寒は止まらなかった。
昔よりは小さく見える。しかし……それで暴力の桁が可愛くなったのでは無いと思い知る。
がらりと変化した空気を感じて、本能が警鐘を鳴らしていた。自身が冥琳の次に信頼している“勘”が、この場からの退避を訴えかけていた。
アレと戦ってはならない。アレと相対してはならない。アレと一太刀でも合わせてはならない。
前は大丈夫だった。長く共に戦ってきた戦友と、そして信頼できずとも信用出来る同質の武人達が共に戦うと知っていたから。
しかし此処にその者達はいない。兵士達には悪いが、雪蓮は理解している。
例え孫呉の兵士達が精強に鍛え上げられた古強者であろうとも、アレの前では紙屑に等しい。故に本能が訴えかける危機感は自身の死の未来に他ならない。
幾重も脳髄に浮かぶのは殺される自分の姿。
袈裟で分断されるか、一瞬で頸が胴体と離れるか、心の臓を真っ直ぐに突き抜かれるか。どれにしても子供と大人のような力の差が感じられる。
しかして、生物的な本能を彼女の心が抑え付けていた。
普段なら高揚して来る強者との対面のはず。しかしそれとは別種の高揚感が身を震わせ包んでいる。
後ろ、前、横……幾多もの視線。
自分の背中を支えてくれる兵士達の熱気と裂帛の気合。戦場を住処としてきた彼女は、彼らの力が自分を強くすると知っている。
例えば、例えばだ。
彼女が自分の為に戦っているならその力は手に入れられない。自分の幸せを願って戦うのなら、彼らの想いは彼女を強くしない。
自身の欲望は確かに人を強くする。鍛錬を積ませ、経験を積ませ、そうして自分を磨き上げる。
しかしながら、戦場で爆発的な力を発揮させる異常事態というのは得てしてそういった輩には起こり得ない。自分が積んできた経験と力以上のモノなど出せる訳が無いのは常であろう。
言い換えよう。
死にたくないという想いは確かに強くとも、自分が幸せになりたいという想いは確かに強くとも……愛する者の為に戦う時にそれらより強くなるのも人間という種。
生死入り乱れる舞台でしかソレは起こり得ず、そういった時にこそ……英雄というモノは過去最高の力を発揮する。
敵に春蘭が居たのなら、きっと孫策とは戦うなと皆に注意を促し、そして、彼女は一
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