暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
翔べない鳥の翼
[6/6]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
虹色。『奴』の力か」

 顎に指先を当てて、記憶を探る。

 無様な姿で彼女と共に戦い、呆気なく消滅した愚かな男。
 本来の力量ではないだろうと思ってはいたが。
 なんらかの形で現界に遺していた力を、クロスツェルが引き継いだ、か。

 本はともかく、『結晶』や『奴』の力まで集めているとなると、少々厄介だ。
 逃走を選んだのは、力の使い方がまだ不明瞭だからだとして。
 自在に使いこなす程度まで覚えられるのは、風向きが悪い。
 アリアはまだ完全ではないし、完全になるのを拒んでいる。

「……甘やかすのも、問題ありだな」

 成就まであと一息のところに辿り着いておきながら。
 隙を突いて、するりと逃げ出した可愛い小鳥。
 今は手元に戻り、以前と変わらないフリを続けているが、さて。

「アリアは神聖なる女神でなければならないが、人間は信仰による救済をも利用し始めている。現代の人間を掌握する物は何だ? 現代の人間を動かす衝動はどこにある?」

 地面を軽く蹴って垂直に跳び上がり、地平線を望む位置でふわりと浮く。

 真っ青な空。遥か彼方に白い雲。
 空との境界を青白くぼかした山並み。
 各地に積もった雪は、陽光でキラキラと眩しく輝いている。

 ああ、やはり。
 この世界は時を重ね、形を変えても美しい。
 美しいものは尊ばれるべきだ。

「早く声が聴きたいな。この世界のどんな音よりも、繊細で力強いだろう」

 久しぶりに会うのも良いと思ったが、『結晶』はもう少し後にしよう。
 楽しみはゆっくりと、だ。



[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ