暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
翔べない鳥の翼
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ッ!!」

 ベゼドラの背中にしがみついて衝撃に備える。
 柔らかな物が無い世界で、それは自殺行為だと思いながら。
 目蓋をきつく閉じた。

 着地の瞬間。
 音がほとんど無いのに、内臓を撃つ振動がベゼドラを通して伝わり。
 凄まじい吐き気が襲ってくる。

 たった一度の跳躍でこれって。
 どういう体の造りをしているのか、悪魔。

「……痛って……ぇ!」

 ベゼドラが震えている。

「お前、重い!」

 それはそうでしょうね。
 と思っても、言葉にする余裕はない。
 口を開いたら、待っているのは惨劇だ。

 すみません。
 今ので限界を振り切りました。

「どわ……っ」

 ベゼドラの足が、着地点の雪に(すね)まで埋まった。
 ここは、先ほど出たばかりの村を遠く眺める雪山の中腹。
 歩きなら、軽く半日は掛かる距離だ。

 凄い。
 悪魔凄い。

「体力無し」

 雪の上に座って、しばらく休んでから。
 ベゼドラに肩を担がれ、ゆっくりと東の方向へ歩き出した。

「体力の問題……、ですかね……?」

 時間の流れが世界に戻った。
 レゾネクトは、何故か追ってこない。
 村が近くにあったからひとまず逃げただけで、どれほど距離を置いても、彼ならば一瞬で現れるだろうと覚悟していたのだが。

 来ないなら来ないで助かります。
 会いたいのはロザリアであって、貴方ではない。

「でもこれで、私の仮定は現実に一歩近付きました。この宝石……どうやらこの黒い本も、やはりアリアとしっかり繋がっているらしい」

 レゾネクトの出現が良い根拠だ。
 遭遇したくはないが、彼もアリアに繋がる道の一つ。
 彼の言動は、何よりも大きな手掛かりになる。
 どうせならアリアも一緒に現れてくれれば良かったのに。

「褒めろよ」
「……他人様の家から無断で本を持ち出したこと、ですか?」

 そんな、得意満面で窃盗行為を誇られても。

 ため息を吐き、本を持った手で頭を撫でてみる。
 鬱陶しそうに払い除けられた。
 ロザリアに撫でられるなら喜びそうだ。

「とにかく、まずは宝石や歌について考えながら、東へ向かいましょうか」
「ああ」

 東の方角へと伸びて消えた、薄い水色の光。
 あの先にアリアが居てくれれば、嬉しいのだけど。



「!」

 二人の姿が一瞬で消えた。
 そう見えた。

 ベゼドラだけなら、まだ解る。
 だが、ただの人間が瞬時に消え去るとは、どういうことだ?
 辺りを見回すが、足跡が増えている様子もない。

「アリアか? ……いや、違うな」

 消える寸前、クロスツェルの周りを、虹色の羽根が覆っていた。


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