3部分:第三章
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こうから老人のしわがれた声が返って来た。それが返事であった。
「御案内しろ」
「はい」
姿は見えていないというのに恭しく一礼する。それから沙耶香に顔を向けた。
「どうぞ」
「ええ」
男が扉を開ける。そして沙耶香はその開けられた部屋の中に入る。その部屋の中に一人の老人がいた。
広い部屋だった。床はやはり樫の色をしており壁は広い。奥に書斎の机がある。その机は黒檀であり、黒くツヤのある光を放っていた。その後ろは全て窓であり透明なガラスが白い太陽の光を入れていた。老人は書斎机の前に車椅子で座っていた。白く、すっかり薄くなった髪を持つ、品のいい顔立ちの老人であった。白いカッターの上にダークブラウンのベストを着て黒いズボンを履いている。そしてその上に赤いガーディアンをかけていた。
「御久し振りです」
沙耶香はまずはその老人に挨拶をした。
「御元気そうで何よりです」
「そちらこそな」
老人もまた沙耶香に挨拶をした。
「相変わらず。美しい」
「また。お戯れを」
「戯れではない。その黒い美貌にさらに磨きがかかったな」
彼は沙耶香の姿を見て微かに笑みを作っていた。
「前に会った時は影であったのに今では闇だ」
「闇、ですか」
「そうだ、まるで闇に咲く薔薇だな」
彼は沙耶香を評してこう述べた。
「その美貌で。また多くの少女達を味わってきたのだろう」
「味わうのは少女だけとは限りませんが」
沙耶香は謎めいた笑みをここで浮かべて言った。
「私にとっては。花は若い花も熟した花もどれも美しい花ですから」
「そちらも相変わらずのようだな」
「ええ。そして花は一つとは限りません」
「成程、君の嗜好は変わってはいないようだな」
「安心されましたか?」
「とりあえずはな。変わっていなくて何よりだ」
「有り難うございます」
「さっきは速水君に会ったよ」
「ほう」
それを聞いた沙耶香の目が動いた。だからあの時彼はあそこにいたのだ。
「彼も今回ここに招待してね」
「左様でしたか」
「庭で会ったと思うが」
「はい」
言葉で頷く。身体は動かさなかった。
「久し振りに。話をしました」
「彼も変わっていなかったよ」
「どうやらその様で」
「相変わらず。君に深い関心があるようだね、彼は」
「彼には私は合わないと思うのですがね」
「それはまたどうしてかね?私はバランスがいいと思うのだが」
老人は面白そうにその皺の顔に笑みを浮かべて言った。
「当代きっての黒魔術師と占術師なのだから」
「術では確かに釣り合っているでしょう」
沙耶香は速水の能力は認めていた。
「ですが」
「ですが!?」
「今の私には。彼に心が向いてはおりません」
「心が向いていないか」
「ですから。今は彼の申し出には受けられ
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