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【銀桜】8.破壊狂篇
第2話「少年は悲しみを乗り越え愛しき人に刃を向ける」
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っていた。
「な〜んてことだ。訊いてくるからてっきりアンタはオレに興味があるもんだと思っていたのに、名を知りたくないとは悲しいことにこれっぽっちもオレに関心がない。いやいや誰もが自分に関心を持つと思っていた自意識過剰なオレが悪いんだな、きっと。だがどうしてもアンタにはオレの名を知って欲しい」
 グラハムは弄んでいたモンキーレンチを天井へ放り投げた。
「何の因果で?」
 双葉が問うのとほぼ同タイミングに落ちてきたレンチをグラハムはキャッチする。
 そしてまた天井へ放り投げる。
「さっきも話したようにオレは高杉のアニキと一緒に『世界』を壊すつもりだ」
 放り投げられた銀の棒は吸いこまれるようにグラハムの手に戻り、また天井へ舞い上がる。
 落下するレンチを掴んでは放り投げる。何てことない単純作業のようだが、取り損ねれば頭は鉄塊に打ち砕かれるだろう。
 一歩間違えば即死しかねない危険なジャグリングをグラハムは何度も繰り返す。
「その特報(ビッグニュース)を誰よりもいち早く知れたアンタは、今世紀最大のラッキーな奴ってわけさ。だからこそ近々幕開けるだろう悲しくも楽しい伝説にオレがいたことを記憶して欲しい」
 危険なジャトリングのテンポは彼のテンションにつれてだんだん速くなっていく。
「そう、『グラハム・スペクター』の名がこの国に轟く日もそう遠くはない。ああ、しかしなんて悲しい話だ。ここまで楽しく、そして悲しい話があっただろうか」
 クルクルクルクルと猛スピードで回る銀の棒とゆるやかに語られるグラハムの詩。
 言葉と動作のテンポが全く噛み合っていない曲芸を冷淡に見据えながら双葉は問う。
「ひとつ聞きたい。その話のどこがどう悲しいんだ?」
“パシッ”
 最高潮に達したテンポを鳴り止ませ、掌中に戻ったモンキーレンチをたった一人の観客に向けてグラハムはニカッと笑った。
「だ、か、ら、オレ達は楽しくって〜

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 その瞳に宿るのは、悲しみも苦しみも破壊も全て『快楽』と愉しむ眼光。
 双葉は確信した。
 その眼に潜むのは、まさしく『狂気』だと。
「笑止!」
 口より早く、双葉は地面に落ちていた鉄パイプを拾い、金髪の少年に迫った。
 この少年――グラハムの武器は巨大なモンキーレンチ。
 それを握る腕を使えなくしてしまえば、勝敗は決まる。
“ガキン”
 工場内に響いたのは激しくぶつかりあう金属音。
 振り下ろした鉄パイプはピッタリとレンチの先端の合間に挟まれていた。

=つづく=
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