29部分:第二十九章
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第二十九章
「あら、お客様」
そこにはうら若き白衣の天使がいた。歳は二十程であろうか。楚々とした顔立ちに優しそうな表情を持っている。白い服が窓から差し込めてくる光を弾き眩いばかりに輝いている。沙耶香はその美しい看護婦のところにやって来たのだ。
「何か御用でしょうか」
「聞きたいことがあって」
看護婦の問いにそう返した。見れば部屋は医務室とは少し違う。清潔で消毒液の匂いがするがそこにあるのは患者用のベッドではなく仮眠用のベッドであった。看護婦用にあえて用意された部屋なのである。
「御聞きしたいことですか」
「そうよ。ここにいる人達のことだけれど」
「はい」
「何か変わったことはなかったかしら」
「変わったことですか」
「そうよ、看護婦の貴女から見て」
「そうですね」
とりあえず思うことを言おうとする。だが沙耶香は急にその目の前から姿を消した。
「えっ」
看護婦はそれを見て目を丸くさせた。
「御客様、何処へ」
「ここよ」
声がした。しかしまだ姿は見えない。
「何処でしょうか」
「ここよ」
また声がした。すると目の前に沙耶香が姿を現わしたのであった。
「何時の間に」
「細かいことはどうでもいいわ」
それ以上は言わせなかった。すぐに小さな紅の唇を奪った。
「うっ」
口の中に舌を入れる。看護婦の舌に触れるとそこに絡ませてきた。濃厚なディープキスを味わいはじめた。
看護婦は最初は抵抗しようとしたがすぐに身体の力が抜けてしまった。沙耶香はそんな彼女を横にあるベッドに押し倒した。
「口から聞く言葉は偽りだから」
看護婦の上で赤のネクタイを外しながら言う。
「心に聞くわ」
「心にって」
「そうよ、貴女の心に」
白衣の天使の上に漆黒の堕天使が覆い被さり汚そうとしていた。そうした姿であった。その漆黒の堕天使は天使の身体と心を奪った。全てを奪い、何もかもをその手の中に収めたのであった。
情事の後。沙耶香は部屋の椅子に座っていた。服は着ていたがカッターの胸元ははだけさせたままであった。そこから豊かな胸が見えていた。
「そういうことなのね」
煙草を手にして言った。青い煙が煙草から立ちこめていた。
「やっぱりあの人ね」
「はい」
看護婦はベッドの中で一糸纏わぬ姿になった。頬を赤らめて頷いた。
「私はこの仕事で多くの人の身体を見てきましたが」
「違うと思ったのね」
「そうです。服の上からでもわかります」
「ふん」
「それに。柔らかさで」
「それはね」
沙耶香はその言葉を聞いてうっすらと笑った。これは彼女にとっては専門分野であったのだ。
「わかるんですよ」
「それであの人はおかしいと」
「はい」
あらためてこくりと頷いてきた。
「私はそう思います」
「
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