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黒魔術師松本沙耶香  薔薇篇
26部分:第二十六章
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バランスを取るのに苦労したという。彼女と背において張り合えたのはフランコ=コレッリという美男子のテノールであったが彼にしてもこのテバルディと同じ程であった。ちなみに彼女はおおらかで優しい性格として知られていたがコレッリはかなり神経質で短気であったらしい。彼と冗談を言い合える程仲のよかったある歌手なぞはそれで人間性がしっかりしているとまで評された程である。
「それを考えると男よね」
「体格もそうですね」
「ええ。けれど」
「けれど?」
 沙耶香はまだ引っ掛かるものを感じていたのだ。
「気配がね。おかしいのよ」
「気配ですか」
「貴方は何も感じなかったかしら」
「そうですね」
 速水はそれに応えて考える顔になった。そして医者と会っていた時のことを思い出す。
「私は特には」
「そうなの」
「はい。何も感じませんでしたが」
「何かね、変なのよ」
「変?」
「そうなのよ。あの人からは女の気配を感じたのよ」
「女の」
「巧妙に隠してあるような。何かしら」
「だとすれば何故ですかね」
 速水もそれを聞いて考える顔を続けた。
「男である理由は」
「それを隠さなければならない理由があるならば」
「それは一体」
「何かしらね」
「この一連の事件に関係があるのかないのかは別に引っ掛かります」
「ええ」
「何故それを隠しているのか」
「それも調べようかしら」
「それには及ばないでしょう」
 しかし速水はそれは制した。
「既にカードを散らしていますし」
「それでわかるのね」
「はい、事件と関係あればね」
「それでどう思うのかしら」
 沙耶香はそのうえで速水に尋ねてきた。
「お医者様ですか?」
「そうよ。シロかしら。それとも」
「極論を申し上げますとここで怪しくない人間は二人しかいません」
「その二人は誰かしら」
「私と貴女です」
 それが速水の言葉であった。
「他の方々は率直に述べさせて頂きますと」
「誰もが大なり小なり怪しいのね」
「そうです。何人かはそうではないとわかりましたが」
「そうね」
 神父やメイド達のうちの何人かがそうであった。そしてソムリエのエレナもである。エレナに関しては沙耶香本人が肌を重ね合って確かめているから間違いはなかった。
「それでもやはり」
「怪しい人間の方が多いわね」
「犯人が複数いる可能性もありますがね」
「どうかしらね、それは」
 だが沙耶香はそれには懐疑的であった。
「その可能性は少ないと」
「流石にここまで悪趣味にやれて、五行思想の知識がある人間が複数いるとは考えられないわ」
「左様ですか」
「それに殺し方があまりにも独特ね」
「それは確かに」
 速水もこれには同意であった。
「複数犯にしては」
「そうしたことも考えていくと」

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