28.希望が殻を破るとき
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、ブレイブの顔色は一つも変わらない。
剣がまったくブレイブに届かない。届いても微かに鎧に傷をつけるだけ。
勝機が全く見えない。
昨日カミイズミがほんの一瞬だけ見せた「本気」と同じ本能的確信が、イデアの頭を次第に白く染めていく。頭の中が白くなって、次にどう動くべきかが分からなくなっていく。覚悟が、音を立てて崩れ去っていく。
「強者と戦うとは、そういうことだ」
肩で息をしながら剣を構えるイデアに、ブレイブはそう告げた。
「真の実力差の前には小手先の細工など通用せぬ。お前はカミイズミの本気を何度見たことがあるか?そしてそれに一度でも勝てたか?」
「そ、それは………」
いつか超えると思っていても、結局自力でカミイズミが本気を出すまでに追い詰められたことはない。昨日のあれは、これからの戦いに備えて見せてくれたというだけのこと。自力でのことではない。本当の強者に勝ったことなど、一度もない――それが真実だった。
「勇気を出す……希望を背負う……覚悟を決める……どれも耳に心地よい言葉だ。だが、言葉は言葉でしかない。力にはならんのだ」
口先だけの力に意味はないと、そう言っているのだ。
そして、現にブレイブに傷一つ付けられていないイデアこそがそれだと。
「お前は『逃げぬ』とも『何度でも剣を抜く』とも言ったが、それはお前の都合でしかない!いくら崇高な目的を掲げようと、力の伴わぬ言葉に誰が心を動かされようか!?力も無しに己の理想を叶えることが出来ようか!?お前の剣に、どれほどの重みが籠っているというのだ!?」
「く……キャァアアアアッ!?」
ブレイブの剣が横薙ぎに振るわれ、イデアは為す術なく刀のガードごと後方に吹き飛ばされ、再び地面を転がった。衝撃にぼやける視界が、自分の握った『伊勢守』を映し出す。
(あたしの剣……あたしの強さ……?)
ブレイブの言葉の一つ一つが、イデアの心を激しく揺さぶる。
自分の剣は、いつも誰かの貰い物。
自分の想いは、誰かから受け取った物。
自分の力は、父には到底届かないちっぽけな物。
自分に、父に試されるほどの資格があったのだろうか。そんな疑問が頭の中を過った。
元帥の娘だからとちやほやされて、剣聖に剣を教えられ、いつだって誰かに助けられてきた自分に――お城のお姫様でしかない自分にあるだろうか。
全てを投げ出しかけたその時、カミイズミの言葉が思い浮かんだ。
『例え君がブレイブに実力を認めさせたところで、その先には逃げ出したくなるほどの苦難がごまんと待ち構えている』
『時間は待ってはくれぬ。敵も、味方も、それを待つほど流暢ではない。イデア、君はどうする』
その時に自分が何と答えたか。それを思い出した
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