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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
28.希望が殻を破るとき
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今やお前は我が軍の………いいや、敢えて言おう!お前は国の希望を背負っているのだ!!その事実を理解して尚、お前は剣を抜く覚悟があるのか!?」

 あまりにも真摯で力強い言葉。
 他の誰でもない、この世界でたった一人――イデアにだけ向けられた言葉が、胸を揺るがす。

 今になって、分かることがある。

(あたし、お父様の理想を叶えたかったんじゃない……確かに尊敬してたし目指すべき指標だったけど、そうじゃないんだ……)

 今、この瞬間。イデアの胸中に浮かび上がった光景が、彼女の想いの底を掘り出していく。
 厳格な父。母の事を想う父。娘を叱る父。でも、優しい父。
 そんな父は、イデアが成長するにつれて厳格な部分ばかりが大きくなっていった。

 大義の名の下に、ブレイブの眼はどこか遠くを見つめるようになっていた。

(あたし、寂しかったんだ………お父様は家庭でなく大義のために時間を取られてたから、あたしも大義の名の下に集えば一緒にいられると思って)

 遊ぼうと言っても、褒めてもらおうと思っても、なかなか振り向いてはくれない大きな背中。
 だが、それは違ったのだ。父は、娘に並んでほしかったのではない。
 娘を、自分より未来(まえ)へと送り出したかったのだ。
 自らには実現できなかった何かを、娘ならば出来ると信じて。

 全てを知った上で――イデアは、こう答えた。

「そんなの分かんないよ」
「……………」
「お父様の希望も、師匠の希望も、みんなの希望も……あたしは余りにも知らな過ぎる。それどころかエタルニアの外の事は人伝にしか聞いたことがない……そんなあたしに『国の希望』って言われても、そんなの答えが出る訳ない」

 ふるふると首を振るったイデアはしかし――次の瞬間、迷いなく鞘から『伊勢守』を抜き放った。

「だからね、お父様。あたし絶対に逃げない!!」

 分からないから、退く。自信がないから、退く。……そんなのは間違っている。
 分からないなら知らなければ。自信がないなら己を鍛えねば。
 そしして前へ進もうとすることで、人は真実を得る。
 だから、退けないのだ。

「託された希望が何なのか……お父様が見据えているものが何なのか……全部見極めて答えを出すその時まで、あたしは何度だって剣を抜く!!それがあたしの覚悟です、お父様!!」

 突きつけられた刃に――ブレイブはほんの一瞬だけ微笑み、自らも剣を抜き放った。

「ならば、お前の覚悟の程を剣にて語るが良い――エタルニア公国軍元帥、『聖騎士』ブレイブッ!!いざ参るッ!!」

 バトルアリーナが展開され、イデアとブレイブの周りに結界が張られる。
 それが、イデア最初の試練となる父の『試練』の戦鐘だった。



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