暁 〜小説投稿サイト〜
黒魔術師松本沙耶香  薔薇篇
21部分:第二十一章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第二十一章

 だが。深刻な事態に陥っている者達もいた。
「館には辿り着けぬか」
「残念ながら」
 あの老人と野島であった。二人はあるホテルの一室で困惑した顔で互いを見合わせていた。豪奢な白を基調とした部屋であった。スイートルームであるらしい。この老人には何故か似合う部屋であった。和服を着、ステッキを手に持っている。そして葉巻を手にしながら彼は野島と正対していたのであった。
「念も届きません」
「むう」
 老人はそれを聞いてまずは唸った。
「実はわしの念もじゃ」
「御前の念もですか」
「そうじゃ。どうやら強力な結界を張っておるらしい」
「結界を」
「その為じゃな。念も届かぬとは」
「ですが御前の念まで防ぐとは」
「何、わしの念は実は大したことはないのじゃ」
「御戯れを」
 しかし野島はその言葉を信じない。
「御前の念ならば」
「あの二人程ではないという意味じゃ」
「二人といいますと」
「言うまでもないと思うがのう」
 老人の返事は素っ気無いものであった。
「二人と言えばすぐにわかるじゃろうが」
「では」
「左様、あの二人じゃ」
 野島はその二人が誰と誰なのかわかった。老人はそれを表情から読み取ると満足そうに笑った。
「あの二人は天才じゃ」
「はあ」
「生まれついてのな。魔術と占術の」
「そして力も」
「うむ。あれだけの力の持ち主はそうはおらぬ」
 どうやら彼はあの二人に対して並々ならぬ信頼があるようであった。
「ただ、二人共どうにも困ったところがあるがな」
「松本様はとりわけ」
「家の娘達に手をつけておるだろうな」
「それは宜しいのですか?」
「何、女が女に手をつけて怒るのも何じゃ」
 彼はそれは一笑に伏した。
「例えばじゃ」
 そのうえで言った。
「御主の妻が女に寝取られたならばどうする?」
「女にですか?」
「そうじゃ。男ならば許さぬであろう」
「無論です」
 野島はその言葉には迷いなく答えた。
「生かしてはおけません」
「そうじゃな。わしだってそうじゃ」
 どうやらこの老人は歳に似合わずかなり血気盛んのようである。今時ここまで言う者はそうはいない。
「じゃが。女ならどうしてよいかわからぬであろう」
「確かに」
 野島は少し首を捻ってそう返した。
「相手が男なら浮気になりますが女ですと」
「寝取られたわけではない」
「ええ」
「難しいじゃろ。どうにも怒る気になれぬ」
「ですね。釈然としないものがありますが」
「それと同じじゃ。家の者に彼女が手を出しても咎めるつもりはない」
「ですか」
「これが彼であってもよいのじゃがな。実は」
「速水さんはまた」
 野島は釈然としない顔から普通の顔に戻った。そして述べた。
「他の女性には興味がおあ
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ