語り継ぐもの 2
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不法侵入者にしてはやけに堂々としている。
両手も空いているし、どこかに武器を隠しているようにも見えないが。
背後を取るまで私に気配を感じさせなかった、なんて、普通じゃない。
「我が家に何の用が…………」
驚きで爆発しそうな心臓を押さえながら身構えると。
女性は白金色の髪を揺らして、見る者の庇護欲をそそる儚げな顔を上げ。
今にも泣き出しそうな薄い水色の目で、部屋の東側奥にある机を見た。
……………………水色?
「……宝石の、関係者?」
川で拾ってきたあの宝石と同じ、澄んだ水色の目。
それだけで判断するのは早計なのだろうが、勘がそう告げてる。
これは自慢だが、私の勘は滅多に外れない。
武芸の師範が、その道を選んだ誰もが一目置くほど優秀な方だったから。
気配を読む力と人を見る目は、師範が育ててくれた数少ない長所だ。
女性は真っ白なローブの裾をふわりとなびかせ、素足でペタペタと……
待て。
足音はしてない。
よく見ると、体も透けてないか?
まさか、幽霊とかじゃないだろうな。
女性は私に背中を見せて、机の前で立ち止まり。
伸ばした左手の人差し指で、引き出しをすぅ……と静かに指し示して。
そのまま、持ち上げた指先を北側の壁に向けた。
…………違うな。
多分、壁の向こう側だ。
隣の部屋に居る男性二人を指し示してる。
「宝石を、あの二人に渡せ、と?」
指先を壁に向けたまま、肩越しに私を見つめる女性。
唇は動いているが、声も何も聴こえてこない。
唇の形と動きを注意深く観察して、音を目で読み取ってみる。
「『あい、あ……お、あ……う……え……え』?」
あいあ、お、あうええ?
違う。
『あうええ』は、『た』『す』『け』『て』じゃないか?
『お』は『を』?
『あいあ』、『を』、『助けて』?
「あ」
目蓋を伏せた女性が、輪郭から粒子となって霧のように消えてしまった。
ヤバいな、これ。本格的に幽霊の類いじゃないか。
殴れないものは苦手なんだけど……何故だろう。
今の女性に、恐怖は感じなかった。
悲しげな顔をしてたからか?
「フィレスさん」
「! っと……、はい。なんでしょうか、クロスツェルさん」
背後の扉を二度軽く叩かれ、慌てて鍵を外す。
掛けたり外したり、忙しい。
「浴室へご案内しましょうか?」
扉のすぐ側で立っているクロスツェルさんに室内を見られぬよう。
素早く部屋を出て、後ろ手で閉める。
「あ、いえ……、はい。お願いします」
?
何か言いたそうにして、やめた?
「分かりました。
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