暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
語り継ぐもの
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 その後、近代の学者か何かが、現代語に近い形で翻訳したのではないか。

 母語とは異なる言語が示す内容をすべて間違えずに正しく表現するのは、その道を究めた者であっても難しい。
 言葉に込められた意味は、必ずしも一つではないからだ。

 放つ側の事情と感情が絡まれば、どんな単語にも、普遍的な意味の他に、個人的な意図が混じる。
 そこを誤って解釈してしまうと、一見文章として繋がっていながらまるで空っぽな内容になる。場合によっては、意図と真逆の表現にもなり得る。
 そもそも言葉とは、同じ言語を使う者同士であっても、相手への好感度や受け取った前後の経験、仕入れた情報次第でニュアンスを変えてしまう物。
 この歌も、先入観や誤解や曲解の上に成り立っている物かも知れない。

「愛の歌、か」

 近所の家から、子供の名前を呼ぶ女性の大きな声が聞こえた。
 少々ご立腹な声色を聞き、慌てて歌を中断する子供達。
 バイバイと手を振って解散していくその様子を眺めて、くすっと笑う。

 見上げた空は茜色。
 真っ白に降り積もった雪を塗り替えながら、太陽が眠りに沈んでいく。
 入れ代わりに月が目を覚まして、幾万幾億のきらめきを連れてくる。

「やっぱり、平和で平穏が一番良いな」

 子供達の声が聞こえなくなった後も。
 しばらくの間、世界の眠りと覚醒の間をぼんやり眺めていたけれど。
 今日も、特に大きな変化はなさそうだ。

 これからもずっと、こんな日が続けば良いのに。



 自室に戻って扉を閉め切り。
 ふと目についた机の引き出しから、手のひらほどの白い袋を取り出す。
 底側を丸く、口側を直線に切り取った厚めの布を二枚縫い合わせた布袋。
 封代わりに結んである蒼色のリボンを解いて、袋の口を左手に傾ければ。
 薄い水色に透き通った宝石が、コロンと転がり落ちた。
 大きさは親指くらい。
 卵型の丸っこさが、妙に可愛らしい。

 よく見ると、宝石の真ん中に小さな点のような物が埋まっている。
 虫などとは違う、覗き込む角度次第で消えたり現れたりする小さな点。
 そのわりに、暗い場所で覗くと、どこから見ても微かに点滅していた。
 どんなに目を凝らしても正体を掴めない、これはなんなんだろう?
 とても不思議だ。

 この宝石は、つい先日、水を汲みに行った川で偶然拾った物だ。
 不透明な灰色の石に囲まれる中で、キラリと光って存在を主張していた。
 歪みらしい歪みが無いので、人の手で形を整えられたのは間違いない。
 しかし、落とし物にしては装飾を施していた形跡が見当たらず。
 売るとか飾るとかそんなつもりはなく、なんとなく拾ってみたのだけど。
 何故か、誰かを待っているような、そんな気がする。

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