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藤崎京之介怪異譚
case.5 「夕陽に還る記憶」
] 3.11 PM4:43〜epilogue〜
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んです。」
「それは分かってる。だが、オルガンは日本のよりも向こうの方が優れてるぞ。録音は向こうでも出来るし、お前の霊に対処する能力はここでは認められんだろ?」
 俺は躰を強張らせた。確かに…霊に関わる俺を冷淡な目で見るやつもいる。それを利用しようとするやつだっていた…。天宮氏は例外だとしても、他の企業が本気でそんなことを考えたら…きっと俺の音楽家としての生命は終るだろう。まるで見世物のような扱いを受けるに決まっている…。
「実はな…姉と会ってきたんだ。」
「母とですか!?」
 驚いた…。叔父の姉である俺の母は、父との結婚を親族に黙って決めたため、大半の親族とは疎遠になっていた。無論、弟の宣仁叔父も長い間疎遠だった。
 だが、俺と美桜は芸術関係で顔見知りとなって今に至る。母にもそれは話してあったが、それ以来叔父の話しはしていなかった。
「母は…元気でしたか?」
「ああ、昔とちっとも変わらん。私が行くなり“宗教勧誘は間に合ってます"と言われた。姉はプロテスタントだからな…。」
 叔父はそういって苦笑いした。母らしい…。
「今はプラハにいる。全く暢気なものだが、お前のことを気にかけていたぞ。」
「…霊についてのこと…ですか?」
「そうだ。私がプラハへ赴いたのは、正式な依頼があったからだが、姉と再会したのは偶然…いや、必然だったかも知れん。使ったホテルが同じで、そこのレストランでばったりだったよ。」
 叔父はさも可笑しそうに笑った。まぁ…あの母のことだ。先に出てきた話しだけでは済まないだろう。全部を聞きたいとは思わないが…。
「で、母は私について何を言ったんですか?」
「…霊を見る力と音楽家としての未来を、私にどうにか守ってほしいと言われた。以前から、お前のことはドイツへ連れて来たいと考えてはいたが、こうして日本へ来たのは、姉にそう言われたのが切っ掛けだ。」
 俺は溜め息を吐いた…。確かに、この力は日本ではもて余す。かといって、自分で育て上げた楽団を残してドイツに行けるか?否。そんなことは出来ない。第一、そんなことを言えば、折角まとめた楽団員の心が乱れ、結局は解散ということになりかねないからな…。解散させるんだったら、彼らに確りした職を見付けてからにしたい…。田邊はカンカンに怒るだろうな…。
「そうだった…。兄もお前に会いたがっていたよ。私が日本に行くと言ったら、兄まで行きたいと言い出してなぁ…。」
「アウグスト伯父様が?もう随分ご無沙汰してますからねぇ…。お会いしたのは、確か大学三年の時でしたね。お元気なんですか?」
「こちらも同じだ。お前は兄の弟子でもあるからな。やはり気掛かりではあるんだろう。ま、お前をダシにアンナと仲直りしたいようだが…。」
 アンナとは母の名前だ。アンナ・アマーリエ・藤崎。以前の姓はヴァイスだった。
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