case.5 「夕陽に還る記憶」
\ 同日 PM4:07
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祝福を与えるから、京之介はその間オルガンでもう一曲演奏してほしいんだが。」
叔父はそう言って微笑んだ。全く…昔から変わらない。
「でも…信者でもない彼女に勝手に祝福を与えて良いんですか?」
俺が心配そうに聞くと、叔父は「神が許す。」と言って笑った。これが法王にも謁見したことのある人物だと、一体誰が信じるだろう…。
叔父は俺のオルガンの響きと共に、気を喪っている亜沙美へと祝福をし始めた。ホール内には紅い陽射しが射し込んでいて、その白い壁を真っ赤に染め上げていた。
その紅は決して不愉快なものじゃなく、どこか懐かしい思い出が漂うような…穏和な色に俺は見えた。
朝実の中にあった記憶には、きっと…こんな夕陽が射していたんだろうなぁ…。
何だか切なくなる。もし…結核が当時でも治せる病気だったら、朝実は幸せに暮らせていただろうか?もし…彼女の両親が違っていたら…彼女は笑っていただろうか?いや…今となっては意味をなさない空想だな…。
俺は紅く染まった空間の中、オルガンを弾き続けた。旧い朝実の記憶や想いが、まるでこの夕陽の紅に溶けて…彼女の元へ還っているようにさえ感じた…。
それがたとえ無意味な感傷だったとしても…。
これで終わりだ…。さぁ…閉幕にしよう。優しい想いだけが残るように…。
皆…きっと愛し合っていたんだと思う。ただ、どこかで歯車が噛み合わずに…互いの心が通じあわなかったんだと思う…。声に出して言っていればきっと…もう少し違う未来があったかも知れない…。
想いは…きっと届いてるはずだ…。
俺は…そう願わずにはいられなかった…。
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