case.5 「夕陽に還る記憶」
\ 同日 PM4:07
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を止めようとしない俺に苛立ちを隠そうとはせず、俺に様々な攻撃を仕掛けてきた。直接的に急所を狙うことは出来ない様で、肩や腕の他に足や背中、時には精神にまでそれは及んだ。
「や…めろ…。くそ…力が…だから…奴を…始末したってのに…!だったら…この躰を使って…」
「天にまします我らが父よ。願わくば汝の御名を崇めさせたまえ…。」
演奏を続けている俺の後ろで、霊以外の男性の声がした。
「貴様…何でここにいる!」
その男性の出現に、霊が戸惑っているようだ。しかし、俺はその声に安堵の気持ちを覚えた。とても懐かしい声だったからだ。
「創造主たる神の独り子、主イエス・キリストの御名によりて汝に厳命する。」
「神だと…?そんなもの…存在しない…!今すぐ…止めろ…!さもないと…この躰…」
「創造主たる神の創りたもうた躰の如何なる場に隠れようと、速やかに去りてこの聖なる躰を永久に求むるなかれ。音が躰を流れるように、神もまた汝の罪を見、必ずやそれを裁くであろう。」
男性はそこまで言うと、後はラテン語で霊へと追い討ちをかけた。
俺はその間、ずっとオルガンを弾き続けた。無論、一曲では終わらず、もう一曲立て続けに演奏をしたのだ。同じくバッハのコラール編曲“我、汝の御座の前に進み出でん"を選曲したが、間違いではなかったと思う。
このコラール編曲については少々複雑で、バッハ未完の大作<フーガの技法>の初版にも付随しているが、不完全な形で別の楽譜も存在している。初期の稿では“我ら悩みの極みにありて"と題されていて後になって先の題に代え、再び元の題名に戻した。恐らく、目の見えなくなったバッハが、弟子の一人に変更を指示したのだろう。
でも…解る気がする。自分の死期を察して、世の悩みから解放され、安らかに神の御前に立つことを願ったに違いないから…。
俺はありったけの思い、信仰心、音楽への愛情を音へ込めて演奏した。いや…いつもそうなんだ。別に教会の日曜のミサに行くわけではないが、俺は幼い時分から信仰心はあった。多分、母のせいだと思う…。
母は幼い俺に聖書を毎晩読んで聞かせ、俺の質問には全て明確な返答を返してくれた。時には性についても語り、幼い俺を困惑させることもあったが…。
「京之介…終わったぞ。」
気付くと、俺は演奏台で座ったままだった。俺は演奏を終えると、ずっと過去を振り返っていたらしい…。
「お久しぶりです。叔父様。」
俺の横に立っていたのは、ドイツにいるはずの宣仁叔父だった。今はカトリックの司祭をしていて、そんな叔父が日本へ来るなんて…。
「随分と立派になったな。」
「有り難う御座います。でも…なぜここへ?叔父様はドイツに…。」
「それは後で話す。今は彼女をどうにかしないとな。あれで悪霊は出ては行ったが、消えたわけじゃない。私は彼女に
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