case.5 「夕陽に還る記憶」
[ 同日 PM3:38
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つか絆創膏を貼ってある程度で、他は大丈夫そうだ。
「真中。さっき僕が電話したとき、何で出なかったんだ?」
「悪い…田邊から電話がきたとき、警官に事情聴取されてたんだ。」
「なんだ。彼女が心配で駆け付けてたとかじゃないのか…。」
田邊はさも残念そうに言うと、真中の顔が見る間に真っ赤になってしまった。こいつ…彼女いたのか…。講義にも練習にも欠かさず出席しているし、その上自主練までやっているから…てっきりいないかと思ってたんだがなぁ…。世の中はやはり不思議だ。
「田邊!それは言わない約束だろうが!」
「え?そうだったっけ?ま、同じ楽団員同士だし、いつかはバレるんじゃない?別にいいじゃん。もう結婚したって不思議じゃない歳だしさ。」
あぁ…真中が田邊に遊ばれてる…。隣で美桜も、可笑しそうに見物しているが、遊びに来たわけじゃない。さっさと仕事を始めないとな。
「真中君…。もう彼女の方は大丈夫なのかい?」
「は、はい!怪我もしていなかったので…。」
「そうか、それは良かった。でだ、連絡していた件だけど。」
「声を掛けておきました。一応、小規模な声楽作品まででしたら大丈夫だと思います。」
俺は真中の答えを聞いて、どうするかを考えた。まさかこの場で演奏会を始めるわけにもいかないからな。周囲には未だ警官や消防なんかもいて、何かとバタバタしていて喧しい。
「北棟を使おう。あそこにはオルガンもあるしな。」
「え…先生?かなり距離がありますよ?」
俺の提案に、田邊が難色を示した。
確かに、北棟はかなり距離が離れている。普通だったら音は届かないと思うが、ここでは違う。
「田邊君。君は知らないかも知れないが、この四つの校舎は響きも計算されて作られてるんだよ。」
「先生…それは僕にも分かりますよ。これでも建設会社の息子ですからね。でも、この距離でそれは…」
「全く問題ない。」
田邊は俺の答えに首を傾げた。だが、美桜が何かを思い出したように手を叩き、俺に言った。
「お兄様。この大学を建設したのって、確か天宮グループの先代社長よね?資金は全て出したけど、名前は伏せていたとか…。で、校舎全体で音響を良くするため、中心…あの中庭へ音が広がるように設計したんじゃなかった?どうやってそんなことしたか分からないけど…。」
「その通りだ。この四校舎、各校舎へ音が響き合うように設計されてるんだ。だが、このままじゃただのコンクリの箱だからね。そこへ細工がされているって訳だ。」
「どんな細工ですか?僕はそんな話、聞いたこともないのに…。」
田邊は不服そうな顔をして俺を見ている。その隣にいる真中は、何を言っているのか分からないといった風だ。
この天響音楽大学は、もとは四校舎からステレオ効果で音を作り出すために実験的に建造された。この大学の名前「天響
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