case.5 「夕陽に還る記憶」
Z 同日 PM2:45
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しなかっただろうが…。
「お兄様…私、これを偶然なんて思えませんわ…。恐るべき…必然…。」
成るべくして成り、起こるべくして起こった現実…。だが、ほかの小野朝実と虎雄を繋ぐ接点は見付からない。
では、二人の小野朝実は、なぜ墓を同じ場所にと遺言を残したんだろう?それも二人は仏教徒だったんだから、遺言と言えど容易く教会へ埋葬するか?これすら予定の内だったと言うのだろうか…?
「いや…待て。結核が蔓延…だと?あれは確かに伝染病だが、蔓延するほど放置するか?それも軍の敷地内で…。」
「そうですわね…。感染するとは言っても、健康体であれば必ずしも感染する訳ではないですし…。お兄様…!?」
健康体でなければ勤まらない兵士が、なぜ蔓延するほど結核に冒されたのか…。答えは…
「故意に感染させられた…。」
「先生…まさか!?有り得ないじゃありませんか!軍ですよ?確かに色々と噂が絶えませんが、まさか結核を故意になんて…。」
俺はどう考えても、ある一人の人物へと考えが行き着いてしまう…。そうでないことを願うが、恐らく、これは間違いないだろう…。
彼ならば…その膨大な資本力とツテで実行出来たはずだ。だから…実子でなくとも娘を愛していた。いや…疚しいからこそ、娘を愛する…いいや、違う。償い…そう、償いをしていたのだ。最初はきっとそうだったんだろう。それがしだいに愛情に変わり、いつしか実の娘と思うようになったんだ…。
「小野秋吉氏だ。彼しか考えられない。」
「何ですって!まさか…親友だったんじゃなかったの?」
「美桜。いくら親友でも、譲れないものはあるんじゃないか?」
「それは…そうかも知れないけど、沢山の人を巻き込むようなことはしないと思うわ。」
美桜は振り向いて俺を睨んでいるが、俺はそんな美桜に溜め息を吐きながら言った。
「俺達は彼らを知らない。だけど美桜、お前が言ったんだぞ?これは必然だと。だったら、そこには犯人…実行したものが必ずいる。秋吉氏の他に、それを実行出来、尚且つ動機の有るものはいるか?」
「…。」
美桜は未だ納得行かないと言った風だったが、渋々「いないわ…。」と呟いた。
「先生、もうすぐ着きます。」
「そうだな…。」
憂鬱な気持ちで、俺は田邊へとそう答えた。
全く…こんな話を平然としていて、このタクシーの運転手はどう思ったんだろう…。ただ、変な人物が乗ってしまったなと感じているかも知れないな…。ま、それでいい。この運転手にはそれくらいのことなんだからな。
日常と非日常は紙一重だ。俺達の日常は、常に非日常へと誘われているように思える。
だが…何のために?それが解った時、一体何があると言うんだろうか?俺は走るタクシーの中から、ぼんやりとグラデーションがかった空を眺めていた。
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