柏木提督ノ章
戦闘指揮所
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は彼女はない。
「響から入電がありました。重要事項との事です」
「お前の無線を中継して繋げ」
「了解。……今繋ぎました」
「響か、どうした」
「丙艦隊に姫の存在を確認。木曾が単艦で残り私達は撤退しました。私を除いた四艦は暫くしたら私に追いつきます」
「な! 見捨てたの!?」
最上の声は、響を攻める声音だった。だけれど私は響を賞賛したかった。彼女のお陰で、死んだと思っていた四艦は生きていた。
「大方、撤退時に一人だけ転進したんだろう」
「その通りです」
「響は四艦を守ったんだ。責めてやるな」
「響、ごめん」
普段の最上なら、こんなに取り乱すことはなかった。度重なる戦闘の緊張感と疲労、そしてもう死にゆくだろう木曾の事で頭が一杯だっただけ。私は最上に何か言おうと口を開く、がその時丁度、響からその無線が入った。
「敵の潜水艦を−−−」
後半は爆発音に掻き消され、私達の耳に入ることはなかった。
「響? 響、響!」
「最上、各艦へ潜水艦への警戒を促せ」
無線越しの最上の言葉は頭に入らなかった。そうして私の頭のなかで幾度も蘇る彼女の記憶も追い出して、私は思案した。展開した艦隊に対潜装備を持たせたものはいない。潜水艦が居る限り、彼女達は水上艦を撃滅したとしても帰投は叶わない。だが、湾内に敵艦隊が侵入してきた今、展開する艦娘の換装も叶わない。
どうしようもない。新たな脅威に、否、想定していなかった脅威に対しこちらは無力なのだ。今から伊隅への撤退戦を命令するべきか−−−。
扉が開けられた。無線を聞いた皆が破棄されたと思っているはずのこの指揮所の扉を、開けた者が居た。それは鳳翔が呼びに行った警備課の者達であった。ただ、それだけで終わらずに一人の英雄を此処に連れてきていた。
「島風、発動機の補修終了しました。即時出撃できます」
「警備隊、参上しました」
私は此処に来ての助っ人に命令を下す。
「島風、対潜装備に換装し命令を待て。警備隊はその護衛だ」
命令に、数多の了解の声が返る。私は彼女達を見送って、一人元指揮所に残った。
誰もいない指揮所で無線機の前に座る。流れる言葉に耳を傾けようとした矢先に、私の鼓膜は破けた。至近距離での爆発が起きたからだ。近くの壁を外側から粉砕したその爆発は無線機を破壊し側に居た私を吹き飛ばした。振れる視界とくぐもる聴覚。なんとか床に手を付き上半身を起こす。右耳の鼓膜は破け何も聞こえなかった。粉塵舞う室内で考える。これは敵戦艦の主砲に他ならない。敵はこの戦闘指揮所を狙える位置に既に居るのだ。もしかしたら、上陸しているのかもしれない。
なんとか立ち上がり、灯りが落ち暗い部屋を壁伝いに移動して行く。途中、何かにぶつかったと思えば、壁にかけてあった九九式歩兵銃だった。私はそれを杖代わりとして持つ
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