柏木提督ノ章
戦闘指揮所
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る鳳翔が、今、口を閉ざす故は明白である。戦場に立ち闘う。其れが艦娘。それが彼女達が今此処に居る所以。
ならば戦場に立たぬ奴は何者か。
「伊隅鎮守府を介し伊勢より入電。索敵機が丙艦隊と交戦中の木曾を発見。尚、丙艦隊に姫を確認との事です」
姫という言葉が聞こえると同時に、心臓が一度、痛い程に大きく高鳴った。
「第二艦隊の状況は」
「木曾は無線応答なしとの事です。それに……木曾以外の艦は発見できずと」
目の前の鳳翔が息を呑む。第二艦隊には彼女の旧友である響も居た。それに、何やら鳳翔と響で随分と木曾に接触していたらしい。その二名を失う、否。その二人に限らずとも仲間が死ぬという事自体が耐え切れぬ重荷に違いない。
「第四艦隊はそのまま丙艦隊へ。撃滅叶わない場合は撤退を許可する。鳳翔!」
「了解しました」
彼女はやっと返事をして指揮所を去った。私はまた卓上の敵の布陣を見る。数は入れども駆逐艦の損失なしには撃滅は時間がかかる。今全艦が敵へと吶喊し魚雷を撒けばそれは直ぐにでも叶うだろうが、それには幾程の被害が出るか。
爆発音が近く聞こえた。敵艦の主砲に他ならぬ。無線手の僅かな指の動きの停止に私は気づいた。臆している。私は無線機へと繋がり集音器の前に陣取り、無選手に声をかける。
「無線が繋がる全艦に伝達しろ」
もはや之迄。湾内への敵の侵入を許した。全て私の失策故だ。数があればと戦艦と空母を伊隅へと送り、敵の攻撃に対し艦娘の生存率優先の愚策を敢行する。悲劇であれば呆れを誘い、喜劇であれば顰蹙を買う出来だ。
「本指揮所はこの通信をもって破棄する。全艦の指揮は継続して最上に有ると共に、全指揮権も現在を以って最上へ譲渡する。尚、第四艦隊が合流した場合、そのどちらもを第四艦隊旗艦へと移す。
諸君、湾内の非戦闘員の撤退は大方完了した。後方への被害を考えずに戦闘を継続し給え。以上だ」
私は言い切ると無線手に撤退を言い渡し、腰を無線機の前の椅子へと下ろした。無線機は今、数多の艦娘からの無線で溢れていた。今や此処も戦闘区域だ。いつ敵の主砲が飛んでくるやもしれぬ。だが、それでも私は聞かねばならぬ事があった。そうしてそれを……。
「響か……戦闘は継続中。ごめん。防衛線は破られた。港に被害が出始めてる」
最上のはっかりとした無線の言葉に、私は驚いた。響は、生きて戻ってきていたのか。
「提督に連絡は今着く?」
響の無線は雑音混じりで聞き取り辛かった。まだ距離が遠いのか。
「重要事項?」
「とても」
「ちょっと待って。…………こちら最上。戦闘指揮所、未だ誰か居ますか?」
「こちら柏木。まだ撤退準備中だ。要件は何だ」
「て、提督!? 撤退」
「二度は言わんぞ」
建前を越えようとした最上を牽制する。大丈夫、この程度で動揺するような艦娘で
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