トワノクウ
第三十四夜 こころあてに(三)
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ない。くうが大きく息を吐いた。
それぞれに小屋に上がり、なるべく静かに自分の床に戻った。
「お騒がせしてすみませんでした。おやすみなさい」
くうが一番に布団を体に被り、目を閉じて眠りの世界に旅立った。
「――今回はどのような計画を立ててるんですか?」
「何のことだい」
「とぼけないでください。彼岸人の出現。正体が明らかになった夜行。先に天≠ノ変事ありと伝えてきたのは貴方でしょう。くうさんは彼岸人最後の一人。どう担ぎ上げるか、もう決めているのですか?」
梵天は呆れの色の溜息を落とした。
「今回、俺はくうには鴇時のような働きを期待してない」
菖蒲は目を丸くした。
「それはまたどうして」
「くうはすでに二度『妖だから』という理由で殺されているからだよ。しかもよりによって彼岸の友人に、だ。その時の心の傷がくうに根深く残って、無意識に人と妖が手を取り合う未来を否定しているんだ」
「そういえば……自分は人と妖関係なく相手に接するとは言いましたが、他者にそれを布教するつもりはなさそうでしたね。くうさんは、私達が過去に起こした最悪の事態を、最初に経験してしまったわけですか。――かわいそうに。そりゃ信じられなくもなりますよね」
菖蒲は心底悲しむ仕草でくうの銀髪を梳いた。
驚いた。この短時間での菖蒲の劇的な変化。何年も通った梵天にさえ成し遂げられなかったのに。
(喜ばしいけど、ちょっと妬けるよ、くう。俺がいくらやっても戻せなかったものをこうも容易く。さすが鴇時の後継者)
くうは暑いのか寝返りを打ちざま布団を蹴った。菖蒲が苦笑し、布団を軽くかけ直した。
「くうさんを御輿に担ぎ上げて対告天の勢力をまとめるのは、今回は無理そうですね」
「世の中そう都合よくできてないってことだろうさ。六年前の鴇時の立ち回りが不自然だったんだ」
「――あまつき≠ノ生きる我々の問題なのに、彼岸の鴇時さんや篠ノ女さんに解決を求めたのが、そもそもの過ちだったのでしょうか」
「銀朱」
口が滑って昔の名で読んだが、菖蒲は気にしたふうはない。動揺しているのはお互い様らしい。
「すみません。でも、どうしても考えてしまうんです。いえ、考えるようになったんです。私達を取り巻く世界は、鴇時さん達が正してくださいました。でも、六年前から私達あまつきの民は、一歩も前進していない。むしろ共通の敵がいなくなったことで、争いは顕在化し、泥沼化しました。だって今の状況は元々私達が抱えていた問題が再開されたに過ぎないんですから」
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