トワノクウ
第三十四夜 こころあてに(三)
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んせえー! と泣き出すくうは、すでに二人の友人を失くしていると思い出す。
「し、篠ノ女さん、落ち着いて……てか貴方そんな性格でしたっけ!?」
いまだ押す力を弱めない、むしろやけっぱちで腕力が増したくうを、菖蒲は必死で押し返した。
「逃げたいなら手っとり早く逃避行させてあげます! そしたら奥さんにも会えますよ!」
それを聞いた瞬間、菖蒲はくうを押し返すのではなく、後ろに流すように突き出した。
しまった、と後ろをふりむけば、菖蒲が押し出したせいで櫓から真っ逆さまに落ちてゆく白い少女。
どうすることもできない菖蒲が見る間に、地上に叩きつけられる――寸前、誰かが地上から飛び上がってくうを受け止めた。
「梵天……」
着地しこちらを睨み上げる梵天に、くうは抱きかかえられていた。
「で?」
一音には、さすが妖の頭領と感じさせるだけの迫力が込められており、櫓から降りた菖蒲は、くうと揃ってガタガタと震え上がった。
「真夜中に騒いで安眠妨害してくれた上に恋仲でもない相手と無理心中をやろうとしていた理由を言ってもらおうか」
「篠ノ女さんが」
「さくっと責任転嫁しないでください!」
「最初に押したの貴方ですよね!?」
「だってあれは菖蒲さんが『逃げたい』なんて言うから悪いんです!」
「逃げる? 何から?」
まさか目の前にいる貴方だ、とは正直に言えず、菖蒲はつい梵天を見上げた。
厳しく見下ろす面にあるのは、怒りと、不機嫌さと、一抹の心配。――顔色を読んだ程度で互いの感情が分かるほどには密な付き合いをしてきたのだ。このくらい、分かる
「はは、は」
菖蒲は顔を覆って乾いた笑いを零した。
「なんだか、ね、ばかみたいだと思って」
立てた膝に顔を埋めて肩を震わせる自分は、笑っているのか、泣いているのか。
顔を上げれば、怪訝さを隠さない梵天と目が合った。
怒らせてしまった、呆れさせてしまった、その事実が今は心地よい。それだけ梵天が自分を案じてくれていた証だから。
(死ぬのはすごくいやだった。まだ生きたいと思える理由があった)
「頭のネジでも飛んだ?」
「ええ、まあ、はは、そうかもしれませんね」
すぐ、目の前の、友に。
「――ありがとう。くうさん」
それを気付かせてくれた少女に、菖蒲は心からの感謝を伝えた。
結局、当事者三名以外に事の次第を知られるのは防げたので、梵天はそれで善しとした。
「さっさと戻って寝ろ。またやったら――分かってるね」
「「はい……」」
くうが先頭に立ち、静かに小屋の戸を開いた。
床に就いた朽葉、平八、芹、菖蒲、露草、空五倍子の誰も起きてい
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