トワノクウ
最終夜 永遠の空(三)
[1/3]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
「安心してる暇はないよ」
梵天と菖蒲が、空五倍子の両腕に抱えられて、くうたちのすぐ近くに下りた。
「今となっては人も妖も、天座の主である俺と、祓い人の頂点にいる菖蒲の命令に従わない。告天がばら撒いた穢れが理性を塗り潰したんだとしても、ここまで来ればどちらともが血に酔って、歯止めが利かなくなってる」
深手を負って呻く者、血を流す者、身体が妙な方向にねじれた者、様々に被害が広がっている。惨状は地平線まで続いている。
「う……」
「! 朽葉さん! 萱草さん!」
――先ほど着地した時、くうは露草と黒鳶を止めるため、朽葉は他にも敵対している者たちを治めるために別行動を取っていた。
四つん這いになって起き上がろうとする朽葉と、そんな朽葉を守って流星錘を振り回している萱草が見えた。
くうは彼らに駆け寄り、朽葉の傍らにしゃがんだ。
白い光を手の平から朽葉に注いだ。朽葉についた傷は癒えた。
「すまん……私はもういいから、他の者も癒してやってくれ」
はい、と返事して立ち上がった瞬間、くうは己の失敗を思い知らされる。
無数の怪我人と手負いの妖が湖面を覆い尽くしている。
誰からどの順番で救ってやればいいのだろう。
立ち尽くすくうの足を何者かが掴んだ。
喉の奥からひきつった悲鳴を上げて見下ろすと、鉤爪を持つ狼と人のキメラのような妖が、息も絶え絶えにくうに縋る目を向けていた。
(一番近くにいるんだからこの妖から傷を治してあげるのがいいんでしょうか。それとも、妖の生命力は人間をはるかに上回るんだから人間を優先したほうが。ううん、そもそも人と妖を区別しないで本当に死にかけているひとからでないと、被害は拡大する一方じゃ)
悩んでいる暇はないのに、くうはどんどん混乱していき、誰から救うのが最善か分からなくなる。
こうする間にも見えないところで死んでいるかもしれないのに。
動け、考えろ。
――だめ、動けない。
考える内に、くうの足にしがみついていた狼の妖がどうっと倒れ伏した。
くうが救いの手を延べるのが遅れたせいで、一つの命が散った。
「あ、ぁ、ああ……っ」
鳳の権能によってこの場の生き物の生き死にを握っている、今のくう。
生殺与奪権は自分にある。好きな者から、好きな順で、心のままに救って許される立場にいる。
命を握る、運命を握る、人生を握る。
好きに殺していい。好きに生かしていい。
(これがお母
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ