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黒魔術師松本沙耶香  薔薇篇
13部分:第十三章
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るのに。そしてそれが彼女に向けられているということに。彼女は気付いてはいなかった。
「フランス人はまず自分達のものを第一と考えるわね」
「否定はしません」
 これはあまりにも有名である。それにより欧州の周りの国はおろか世界から顰蹙を買うことも多い。それでもフランスはフランスなのである。
「日本にもこれ程のものがあるとは」
「思いも寄らなかったと」
「はい。御言葉ですが所詮フランスではないと」
「そう思うわね」
「ところが。これ程までとは」
 エレナにとっては信じられないことであったのだ。
「素材とシェフを揃え、そしてワインは」
「どれも。選りすぐりよね」
「そうです。私もここまで揃っているのは見たことがありません」
「それだけのものがある場所にはあるということよ」
「ええ」
「私もね。それはわかったわ」
「そうなのですか」
「フランスでもね」
「そういえばフランスにも来られたのですね、パリやニースに」
「そうよ。どれも忘れられない思い出よ」
「フランスではどれが最もよかったでしょうか」
 ここでエレナはフランス人が期待している答えを待っていた。フランスそのものだと。沙耶香もそれはわかっていた。だが。彼女はあえてそうは答えはしなかったのであった。
「女性よ」
「女性!?」
「そうよ。全ての中で。それが一番美味しかったわ」
「あの」
 エレナにはその言葉の意味がよくわからなかった。
「松本さん・・・・・・でしたね」
「ええ」
「それは一体。どういう意味なのでしょうか」
「わからないかしら」
「女性が最も美味しいとは。その」
「今からその言葉の意味を教えてあげるわ」
 そう言った瞬間であった。沙耶香はエレナの前に姿を現わしていた。まるで影の様に現われた。
「!?」
「それはね」
 彼女は語る。
「こういうことよ」
 そしてエレナの唇を奪った。刹那の動きであった。
「なっ」
 唇を奪われたエレナは咄嗟に沙耶香から離れた。口を手で守りながら言う。
「一体何を」
「知らないのかしら、接吻よ」
 沙耶香は目と唇だけで笑いながらエレナに言葉を返した。
「それは知っていますが」
「じゃあわかるわよね」
 沙耶香は自身を守ろうとするエレナを悪魔的な、それでいて甘さを秘めた誘惑の笑みで見ながら言った。
「私が何故ここに来たのか」
「そんな、私達は」
「女同士、と言いたいのかしら」
「それ以外に何が」
「おかしなこと」
 そのうえで彼女は笑った。
「女同士だからいけないというの?」
「神の教えは」
「神、ね」
 エレナはフランス人だ。ならば信じる神はわかる。だが沙耶香はその神の名を聞いて一笑に伏したのであった。


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