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逆さの砂時計
くろすつぇるさんのためいき
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、わしゃわしゃと髪を乱して離れた。

「良い旅をー!」

 馬車へ戻って手を振るアーレストに、小さく手を振り返し。
 再び、ベゼドラと一緒に歩き出す。

 突然の再会に驚かされた一幕だったが……。
 自分を育ててくれた国に居れば、こういうこともたまにはあるだろう。
 できれば、教会関係の顔見知りとは、あまり会いたくないのだけど。

「アーレストに何を言われたのですか? ベゼドラ」

 うつむいたままのベゼドラに目を向けると。
 彼はギリッと歯を食いしばり、悔しそうに拳を握った。

 …………?
 悔しそう?

「あの野郎……。人間のクセに、俺が悪魔だと一目で見抜きやがった」

 え?

「まさか。悪魔の存在なんて神代の寓話(ぐうわ)程度にしか伝わっていませんよ? 私も、貴方以前に会った経験はありませんし」

 悪魔だけではない。
 女神アリアだって、大半の信徒は象徴の扱いだ。
 教えを形にした偶像の域を出ず、本当に存在しているとは思ってもいない様子だった。

 この現代で、ほぼ空想上の生物を見抜いた?
 アーレストが?

「少しでもお前(クロスツェル)に危害を加える気配があればここで祓うつもりだったが、今回は見逃してやる。お前を命懸けで護れ、だとよ」
「それで不機嫌なのですか? 非力な筈の人間に、正体を見破られたから」
「アイツ、お前以上に気持ち悪いっ!!」
「あ、はい。理解しました。聴いたんですね? 地声」

 見かけは細い線の、場合によっては美しい女性に見えるアーレストだが。
 彼は歴とした男性だ。
 それはベゼドラも気付いただろうが。
 まさか、声色を自在に操れる声帯の持ち主だとは思わなかったのだろう。

 アーレストの声音は、人間の域を超えている。
 同性から異性の声はもちろん。
 動物の声や虫の聲、風の音や水流音まで、完璧に再現できてしまうのだ。

 そんな彼の地声は、とっっても低い。
 耳元で十秒間「あー」と言われるだけでも脳震盪(のうしんとう)を起こしそうなくらい、とんでもなく低い。
 あの美しい顔で睨まれつつ、ドスが効いた声で脅されれば。
 さすがの悪魔ベゼドラでも、怯えてしまうかも知れない。

「なんなの、お前ら。おかしいだろ、アリア信徒」
「私までひとまとめに評価しないでください。彼は特別なんです」

 自分はあんな特技、持っていない。

「第一、貴方だって私の声を真似していたでしょう。教会で」
「悪魔の声と人間の声を一緒にすんな!」

 それはそうだが。
 悪魔にまで異常と言われるとは。
 あらゆる意味で凄いな、アーレスト。

「男同士でベタベタと気持ち悪ぃし!」
「あれは私も理解不能です」

 子供
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