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逆さの砂時計
くろすつぇるさんのためいき
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 要らぬ好奇心を煽って、森に迷い獣に食われる被害者を増やしかねない。

 ベゼドラの口をどうやって塞ぐかが、頭痛を招く問題だ。
 彼なら、悪意を持ってわざと連れて行きそうな気がす…………

「…………それは、ないですね」
「あ?」
「いえ。なんでもありません」

 自分の呟きに反応して上げた顔を、あっそ。と、興味なさそうに下げ。
 また、誰かの日記? を読み始めた。

 ベゼドラと旅をして気付いたことの一つだが。
 彼は、基本的に観察しているだけで、周りに対して無闇な干渉はしない。
 自分の目的に関わることだけを選ぶ節がある。

 悪魔といえば、手当たり次第に人間を堕落させたり喰い物にしたりという印象があった自分としては、かなり意外だ。
 悪魔は全体的に面倒くさがりなのか、と尋いてみれば。
 他のヤツのことなんぞ知らん! と、キッパリ切り捨てられた。

 分別をつけられる大人ではなさそうなので。
 要するに彼は多分、子供……なのだろう。
 興味が向いた先にしか進まない、他を省みない、純粋でまっすぐな子供。

 悪魔に純粋とは、これいかに。
 そして、外見では想像もつかないが実年齢はおそらく四桁を越えている。
 そんな相手を子供呼ばわりするのも、いかがなものか。

 しかし、リーシェの例と併せて考えてみるに。
 案外、長寿生物ほど精神の発達は遅いのかも知れない。
 元々の感受性の違いなのか、単純に人間が生き急いでいるだけなのかは、微妙なところだが。

「クロスツェル」
「!?」

 突然、黒い本を雑に投げ渡された。
 慌てて両腕を伸ばして受け取り、落とさないよう胸に抱える。

「それ、持ってろ」
「自分で持ち出したのでしょう。貴方が責任を持って大切にしなさい」
「嫌だ。重いし、邪魔くさいし、面倒くさい」

 自分の推測は正しそうだ。
 ぷぃっと横を向く彼の顔は、玩具の片付けを拒む子供そのもの。
 泣き喚いて嫌がらないだけ大人な気もするが。
 この体格でそれをされたら痛々しいにもほどがある。
 そこまで幼くなくて良かった、と心から安堵しつつ。
 また一つ、ため息が溢れ落ちた。

「これ以上は持ちませんからね」

 あれこれ言っても、彼が居なければ、自分はここまで来られなかった。
 少しくらいは協力しても良い……が、甘やかしてもいけないのだろう。
 多分。

 神父を辞めて、悪魔の父親代わり。
 頭の隅をよぎった言葉に、何の冗談かと笑いが込み上げてくる。



 下った先では、巨大な石壁で円く囲まれている大きな街が構えていた。
 唯一の出入り口となっている立派な門の周辺には、街への立ち入り許可を求めて馬車で並ぶ商団や芸団、個人旅行者らしき姿が
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