10部分:第十章
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香はそれはすぐに否定した。
「そんなことを許すのは。プライドが許さないわよね」
「ごもっとも」
「私はね、仕事は果たす主義なのよ」
「それは私も同じことです」
「わかっているわ。それじゃあ」
「まずは犯人を」
「探すことにするわ」
教会の紅い薔薇のことはすぐに館の主人にも伝わった。そしてシスターの遺体は十字架から下ろされ、丁重に葬られることになった。それを見る神父の悲しみは極めて深いものであった。
「あの」
だがこれも捜査の為である。二人はその落胆している神父に声をかけた。二人であった。
警察は主の力のせいか公には呼ばれなかった。内密に呼ばれた者達も陰に隠れて遺体を下ろし、解剖に向かうだけであった。彼等は今回の捜査には携わっていなかった。あくまで沙耶香と速水の仕事であったのだ。
二人は神父に問うてきたのだ。犠牲者であるシスターのことを。速水のファイルでおおよそのことは知っていたがそれでも直接情報を聞き出したかったのである。
「お話を御聞きしたいのですが」
「貴方達は」
初老の神父は二人に顔を向けた。二人はにこやかとはいかないが一応は笑みを作った。口の両端を微かに形を変えて笑ったのである。
「はい、こちらの主の方に呼ばれまして」
沙耶香は昨日ここに来たことは隠した。身分を明かすと何かとやりづらくなると思ったからだ。
「探偵さん達ですか?」
「ええ、まあ」
「そんなところです」
「左様ですか」
あまり成功したとは言えない演技だが神父はそれに頷いた。そして二人を礼拝堂の奥の控え室に入れ三人で話をはじめたのであった。
「彼女は。よいシスターでした」
席に着くとまずこう言った。
「よいシスターですか」
「はい。真面目で信心深く。期待していたのですが」
「それがああしたことに」
「まことに。悲しいことです」
神父は肩を落とした。この上ない落胆であるのは二人にもわかった。
「犯人は。誰なのでしょうか。せめて罪を償ってもらいたいものです」
「それはこれからですね」
「犯人は我々が必ず探し出します。ですから御安心を」
「お願いします」
「わかりました」
神父との話はすぐに終わった。とりあえず情報は得たがそれはシスターに関する差し障りのないものでしかなかった。そして別に探っていたことも手懸りとはならなかった。
「あの神父さん、どう思うかしら」
沙耶香は教会を出て暫くしてから速水に声をかけてきた。
「彼は。何も感じませんね」
これが速水の返答であった。沙耶香も同じものを感じていた。
「邪悪なものも暗いものも。一切ありません」
「真面目な只の神父ってわけね」
「はい、それは貴女にもおわかりだと思いますが」
「そうね。それは感じるわ」
沙耶香もそれは感じていた。そのうえ
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