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藤崎京之介怪異譚
case.5 「夕陽に還る記憶」
U 2.26.AM10:47
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94番の演奏でしたわ。」
「あれを買って頂いたんですかっ!?」
 俺が驚いて聞き返すと、早紀夫人は微笑しながら恥ずかしそうに言った。
「最初は友人の薦めで借りて聴かせて頂いたんですけれど、直ぐに買い求めてしまいましたの。藤崎様は未だ六枚しかお出しになってませんが、今後はどのようなご予定ですの?」
 いやぁ…こんな有名な方がファンだなんて…これは夢か?それとも幻か?
「はぁ…まだ先の話になりますが、天宮グループの支援でチェンバロとカンタータの全集を録音中です。」
「あら、それは良いことをお聞きしました!友人に天宮さんとお知り合いの方がおりますの。その方にもお話しして差し上げなくてはね。」
「そんな、滅相もありません!」
 俺が焦ってそう言うと、早紀夫人は笑ってこう返した。
「その方が私に藤崎様の演奏を推薦して下さいましたのよ?その方もきっと、この話を聞いたら喜びますわ。」
 今日は来て良かった…。こういう人達がいてくれないと、全集なんてものはそう売れるものじゃないしなぁ…。売れてくれれば先へと繋がるが…俺の場合、要らん事件に巻き込まれるから、録音が遅れてしまうんだがな…。いかん、今日はこんな宣伝をしに来たんじゃなかった。
「藤崎教授。オルガンの全集は予定されているのですかな?」
 早紀夫人とお茶を頂きながら話をしていると、先程出ていった明臣氏が戻ってきた。
「教授は止めて下さい…。まぁ、オルガン全集も予定には入ってます。実は五年前から録音を始めてはいるんですよ。」
「そうですか!では、近々発売に?」
「ええ。第一巻は来年春頃になると思いますが。」
「これは楽しみですな。で、どう組むつもりなのだね?」
「私は自由曲とコラールを交互に出そうかと考えてます。第一巻は、先ずはトリオ・ソナタを出すつもりですよ。その次からは一ヶ月毎のリリース予定です。第二巻はオルゲルビュヒラインを予定してますが、これは天宮さんの意向を聞いてからになるので。」
「それは良い!無論、カンタータやチェンバロ作品も聴きたいが…」
「父さん!母さん!教授がお困りじゃないですか!」
 俺が少々困り顔になりつつ会話をしていた中に、昨日会った大学の生徒が姿を現した。昨日とは違い、随分と顔色も良くなっており、体調も戻ってる様で何よりだ。
「教授、大変失礼致しました。お分かり頂けたと存じますが、以前より、家族して教授にお話しを伺えたらと思っておりましたもので…。」
「いや、構わないよ。でも…教授やら様やら付けないでほしいかな。私自身、しがない音楽家の一人でしかないんだから。」
 俺がそう言うと、栗山一家は顔を揃えて笑った。なんとも幸せそうな家族に見える。こうして見ると、何の心配事も無い様に見えるんだがな…。
「分かりました。藤崎先生。」
 亜沙美嬢は素直にそ
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