暁 〜小説投稿サイト〜
藤崎京之介怪異譚
case.5 「夕陽に還る記憶」
T 2.25.AM10:55
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京芸術大学の前身なのだから…。
 それに、俺の記憶違いでなければ、昨年東京でバッハのミサ曲ロ短調を演奏した団体はない筈だ。それも第二部のクレドだけとは…。それだけ単独で演奏されることは稀で、彼女が何を言っているのかを誰も理解出来ないでいた。
「あら、皆様お行きになりませんでしたの?音楽学校の皆様で、西洋の音楽を紹介すると言うものですのに…。」
 いよいよ訳が分からない。この現代において、わざわざ西洋音楽を紹介する必要がどこにあるんだ?俺は不審に思い、それとなく彼女へと問い掛けた。
「君、その話は何年のものなんだい?」
「昨年の六年ですわ。あれだけ騒がれましたのに…。」
「六年って…そりゃかなり前じゃないか。」
「は?もう、ご冗談を…。今年はまだ昭和七年ですわよ?大正六年ではありませんわ。」
 何かの悪戯か?もしそうでなければ、彼女はどこかしらおかしいのか?
 だが、その両方でないとしたら…。
「君…名前は何と言ったかな…?」
「申しておりませんでしたか?これは失礼致しました。私、小野朝実と申します。朝に実ると書きますわ。家ではピアノを学んでおりまして、それで異国の音楽が好きに…」
 彼女はそこまで話すと、なんの前触れもなく後ろへと倒れてしまったのだった。
 俺達は暫く唖然として彼女を見ていたが、何とか我を取り戻して俺は直ぐに救急車を呼ぶよう学生に言うと、倒れたままの彼女を抱え起こした。その顔は酷く蒼白く、白眼を剥いた表情は異常と言えたが、暫くすると数人の教授達が現れて彼女を担架に乗せて行ったのだった。
「あぁ…彼女ね。」
 その場を離れた後、俺は知り合いの教授、智田と合流して先程の話をしたら、彼はまたかと言わんばかりに話をし始めた。
「彼女、以前からああいう感じだよ。なんか持病があるらしいんだが、時々自分でも知らず知らずのうちに変なことを話したり、時には分からない場所にまで行ってることもあるそうだ。一度なんかは、弾けない筈のピアノを見事に弾きこなしていた。それもモーツァルトにショパンだよ?かなり古めかしい解釈だったが…何で管楽しかやったことのない彼女が、あんなに鍵盤を叩けたのかは謎だね。あ、そうそう。そういう訳で、彼女がそうやって倒れた時には、直ぐに家族へと連絡するようになってるんだそうだよ?目覚めた時には別段異常があるわけじゃないらしいから、そのまま家へ連れ帰ってるそうなんだ。」
 あぁ…ここへ来てまた、厄介なことになりそうだ…。だが、俺は明日帰るからな。この話はこれで終わりにさせよう。
「そうだ、京。今晩も演奏頼むよ。家の嫁さん、君の演奏気に入っちゃってさぁ。」
「はいはい…もう分かってるよ。今度来るときは、前もってホテルを予約するようにするさ。」
「まあまあ、そう言うなって。」
 俺達はそんな他愛もないことを喋
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