トワノクウ
第三十四夜 こころあてに(二)
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握った。
「ま、待て。どうした。落ち着け、くう」
「落ち着いてます! くうなら平気です! 相手が明おばさんでも、悪いことしたら……本当に本当に酷いことしたら、差し違えたって止める覚悟くらいあります! 明おばさんと戦うより、皆さんに要らないと思われたままリタイアするほうがずっといやです!」
言い切って、肩を上下させて荒い息をくり返す。
沈黙が下りた。
長く、息詰まる、静かすぎる時間が流れた。
ふいに朽葉がくうを低い声で呼んだ。
「浸かれ」
言われるままに湯船にリターン。「百数えろ」と言われたので素直に数を数え始める。
三十を過ぎたところで頭がぼーっとしてきた。五十を過ぎる頃にはふにゃふにゃで気持ちよくなってきた。百になる前に寝てしまった。
「こら、起きろ。風呂の中で寝る奴があるか」
「ふあ!? すみません。芹ちゃんは?」
「先に出た。お前ももういいぞ。出よう」
くうは朽葉と湯船から上がって体を拭き、着替えて外に出た。
すでに空は夜色に染まっていて、月がぽっかり浮かぶのみ。火照った身体に夜気が心地よかった。
くうはただただ月を見上げて立っていた。
どれくらい経ったのか。くうの頭に朽葉の手が置かれた。
「私はな、彼岸人だからといって、お前に鴇を救ってほしいとは思っていないよ」
胸に鋭く刺さった。期待されていない。どうでもいいと思われている。
「なあ、くう、これは誰にも秘密なんだがな、私は鴇を愛しく想っているんだ」
くうは首を傾げた。秘密も何も、朽葉の恋心はほとんど周知の事実、公然の秘密ではないか。
「鴇を守るのは私の役目だ。鴇が目覚めを望むなら、起こしてやるのも私。鴇が眠り続けてこの世を維持させたいなら、眠りを守るのも私。くう。奴は私のものだ。だから、くうがどんなしがらみをもって鴇を救いたいと言っても、私はそれを許してやれない」
あまりにも晴れ晴れと、清々しく宣言されたものだから、くうはぽかんとして、そして毒気を抜かれてしまった。
「……よーするに、鴇先生をいちばん好きなのは朽葉さんで、鴇先生のために何かしてあげる特権も朽葉さんのだから、くうなんかお呼びじゃねえ! と。そういうことですか」
紺と萌黄の悲願も、鴇時への思慕も、コンプレックスも、朽葉はたった一つ、鴇時への恋心で吹き飛ばしてしまったのだ。
「平たく言えばそうなる。いくら鴇の教え子だろうとそこは譲れん。悪いが諦めろ」
「ひどいですよお」
あはは、と気泡の抜けた炭酸のような笑いが漏れた。
あんまりだ。今日まで散々悩んだのに、何もかもただの野暮にされたのだから。
「とはいえ」
朽葉はもっともらしく腕組みし、あごの下に指を持
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