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黒魔術師松本沙耶香  人形篇
25部分:第二十五章
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に穏やかな顔で答えた。
「誰でも持っている人形です」
「誰でも?」
「はい、必ず一つね。誰でも持っているものです」
 にこやかに笑ってこう述べた。
「何でしょうか、それは」
「もう一人の自分です」
「はあ」
 そう言われても二人には今一つわからなかった。首を捻るばかりであった。
「今もそれは姿を見せていますが」
「何のことかよくわかりませんが」
「それもおいおいおわかりになられると思いますよ」
「そうなのですか」
「全ては表と裏があるのです」
 沙耶香はまたそれについて言及した。
「そして表も裏も別の世界ではなく同じ世界にある。それを繋ぎ合わせているのが」
「魔性なのでしょうか」
「そういうことになります。では仕事が終わりましたのでこれで」
「あの」
 だがここで二人は沙耶香を呼び止めた。
「何か?」
 彼女はそれに応えて扉の前で振り向いた。奇しくも真由子との情事の後と同じ態勢であった。
「また。御呼びして宜しいですか」
 理事長が尋ねてきた。
「何か事件があれば」
「ええ、どうぞ」
 沙耶香は笑ってそれに対して頷いた。
「お話を持って頂ければ。宜しければ個人的なお話でも」
 そう言って絵里を目だけで見る。彼女もそれに気付いた。
「えっ」
「何時でもお待ちしておりますので。それで宜しいですね」
「は、はい」
 絵里は顔を赤らめて頷いた。まるで恋をする少女の様な様子であった。理事長はそんな彼女を見ていささか奇妙な感触を覚えた。
「森岡先生、どうかされたのですか?」
「えっ、いえ」
 理事長の言葉を耳にして慌てて体面を取り繕った。
「何でもないです」
「そうなのですか」
「そう、何でもないですよ」
 沙耶香は笑って言った。同時に心の中で言った。
(表に出ているものを見る限りは)
 そしてあらためて言った。
「また。お待ちしています」
「あのバーでですね」
「はい」
 そして絵里の言葉に応じた。
「何時でもおいで下さい」
「わかりました」
「お待ちしておりますよ。薔薇色のワインと共に」
 それが最後の言葉であった。最後に一礼して学園を後にする。後には影一つ残ってはいなかった。


黒魔術師松本沙耶香  人形篇    完


                     2006・4・16


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