2部分:第二章
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見れば」
沙耶香は答えた。
「その目がね。全てを語ってくれています」
そう言いながら絵里の黒い瞳を覗き込む。まるで琥珀の様に綺麗な瞳だ。今その瞳を沙耶香はその切れ長の、ブラックルビーを思わせる瞳で覗き込んでいたのであった。それは獲物を狙う豹のそれにも似ていた。
「私の目が、ですか」
絵里はここでどきりとした。まるで沙耶香が彼女を狙っているように感じたからだ。それはある意味において正解であった。
「まあ飲みながらお話をしましょう」
沙耶香は酒を勧めてきた。
「まだ夜ははじまったばかりです」
「はい」
「夜は酔っている方が楽しいですから」
「酔っている方が」
「ええ。そしてそれは酒に酔うだけとは限りません」
また口の両端で笑っていた。
「酔い方にも色々とあるのですよ」
「お酒だけではないのですか?」
「あくまでそれは酔う方法の一つに過ぎません」
その瞳に濃厚な頽廃が宿った。
「他にも。色々とあるのですよ」
「色々と」
「ですが今は酒に酔うことにしましょう」
絵里のグラスにその薔薇色の滴りを注ぎながら言う。
「それで宜しいでしょうか」
「はい」
酔うことは罪である。倫理観の強い絵里は子供の頃からこう教えられてきた。今もそれは変わりはしない。この街に足を踏み入れるのさえ躊躇っていた程である。
だが今は違っていた。今目の前に座る沙耶香の言葉にあがらうことは出来なかった。そして素直に頷きその勧めを受け入れた。彼女は溺れることにした。
「そして先程のお話の続きですが」
「はい」
絵里は沙耶香に顔を向けた。
「貴女の学校で起こっていることですね」
「そうです」
「そしてそれは」
「ここでは」
しかし大切なところで絵里はその目を左右に漂わせた。
「人がいますので」
「大勢のところではお話出来ないと」
「はい」
こくりと頷いた。
「わかりました。では場所を変えましょう」
沙耶香はそれを受けて話をする場所を変えることを提案してきた。
「二人きりでお話をするのに丁度いい場所を知っていまして」
「二人きりで」
「はい」
沙耶香はまたあの誘う様な笑みを浮かべてきた。
「お酒を飲み終わってからで。宜しいでしょうか」
「ええ、それからで」
絵里はまたしても沙耶香の言うがままに応えた。そしてまた頷いたのであった。
「お願いします」
「わかりました。ではまずはお酒を楽しみましょう」
二人はまずはそのまま酒を楽しんだ。そして店を出て二人で夜の街に出たのであった。
銀座は夜といっても明るいものである。ガス灯が有名な場所であるがそれ以外でも眠ることがなく常に明かりで満たされていた。夜の世界に浮かぶうたかたの楽園であり、そこに集う者達はその仮初めの夢を共有していたので
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