暁 〜小説投稿サイト〜
鎧虫戦記-バグレイダース-
第39話 光の先へ進むあなたへ
[2/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
がない。
これは訊いてはならない事だったのだろうか。
弁解しようと俺は口を開こうとした。

「ブーーーーーッ、ハズレ」

彼女はようやく答えた。やはり違うらしい。
しかし、楽しそうな声と裏腹に表情は少し曇っていた。

「さすがに分かんないよね‥‥‥‥」

そうつぶやきながら、少しずつ歩み寄って来た。
その瞬間、急に風が強くなり麦わら帽子が吹き飛んだ。
風に舞いながらどんどん遠くに飛ばされて行く。

「これなら‥‥‥‥分かるかな?」

 ぎゅっ

明日香はアスラに抱き着いた。
一瞬は恥ずかしさを感じたがその後に
ジワジワと心の中から溢れてくる何かを
アスラは理解できずにいた。

「‥‥‥こんなに‥‥‥‥大きくなったんだね‥‥‥‥‥」

 ぽろっ ぽろろっ

明日香の両目から涙がこぼれていた。
それを見たアスラの頭の中の記憶は急に鮮明になった。
霞がかっていた頭の中の記憶が晴れ
そこでは、アスラは彼女を下から見上げていた。
その時に後頭部から温かさを感じていたので
アスラは彼女に抱えられていたようだ。
そして、それが何を表しているかをすぐに理解した。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥母‥‥‥さん‥‥‥‥?」

アスラは明日香を見下ろしながらそう訊いた。
彼女は涙を流しながら、嬉しそうに微笑んでいた。

「そうよ‥‥‥‥‥‥私はあなたのお母さん」

そして、アスラをさらに強く抱きしめた。
アスラの両目から涙が溢れて来た。
初めて母の温もりをここに感じているからだ。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥母さん」

 ギュッ

アスラも明日香を強く抱きしめた。
温かくて、柔らかくて、いい匂いがして
ずっとこのままでいたいぐらいだった。

「あなたが生まれてすぐに死んじゃったから
 覚えてるわけないと思ってたけど
 分かってくれて、本当に嬉しかった」

明日香はアスラに頬ずりをしながら言った。

「オレも‥‥‥会えて嬉しいよ‥‥‥」

アスラは明日香を力強く抱きしめた。

「いたた、苦しいよ、アスラ」
「あ、ごめん‥‥‥」

アスラは明日香を離した。
そして、涙を拭いながらつぶやいた。

「何で赤ちゃんの時の記憶が見えたんだろ‥‥‥?」

それを訊くのをずっと待っていたかのように、彼女は答えた。

「それは、ここはあなたの記憶の集まる場所だから。
 その記憶も、そして‥‥‥‥‥私も」

かざした彼女の手は徐々に透けていっていた。
それに伴って、この世界も徐々に光の中に消えていきつつあった。

「‥‥‥‥そんな‥‥‥‥‥母さん‥‥‥‥‥」

やっと会えたのに。また会えなくなるなんて。
そう思いながら、アスラは彼女の手に触れよう
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ