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逆さの砂時計
魔窟の森 3
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「……リーシェは現在、里で唯一の女性体。これからエルフ族の母となる、貴重な身の上だ。大切に護らなくてはならない」

 ネールの背中へと向き直ったクロスツェルが。
 なんだかいろいろと問題がこもっている発言にギョッと目を剥く。
 対してベゼドラは、愉快そうに笑い声を上げた。

「なるほどね。アイツは白蟻(しろあり)の次期女王様ってヤツか。里中がお相手とは、ご苦労なことだ」

 エルフは決して、里に部外者を招き入れない。
 つまり、この種族は純血種。

 『絶滅危惧種』とまで言われた者達が。
 今日になるまで、どうやって一族を繋いできたのか。
 これから、どうやって繋いでいくのか。
 当然、一に対して一で足りる数ではない。

 再びリーシェの姿を遠目に見たクロスツェルは、背筋を凍らせた。
 実年齢はともかく、あんな小さな子を種の保存に利用しようというのか。
 いや、全員同じ容姿ではあるのだが。

「なんとでも言え部外者よ。それでも我らは絶えるわけにはいかないのだ」

 拳を握り肩を震わせて足を早めるネールに付いて行きながら。
 二人は真逆の顔色で、森の外まで案内された。
 二人が入ってきたほうと反対側に抜け、ネールはさっさと里へ引き返す。
 その背中を複雑な表情で見送るクロスツェルに、けらけらとお腹を抱えて嗤うベゼドラ。

「アイツら、まるで変わらねえんだな。元々女の数は少ないほうだったが、今じゃ男十一匹に女一匹の崖っぷちも崖っぷちだってのに、ここまできてもまだ排他存続を貫くとか。バカだろ絶対」
「…………やはり、エルフの総数は十二人なのですか?」
「この周辺にゃアイツら以外で人型の生体は居なかったからな。動物相手に種付けしてりゃ知らんが、お前が会話できるエルフに限れば十二匹だな」
「そう……、ですか」

 普段であれば、言葉を選びなさいと叱る場面だが。
 今のクロスツェルは、そんな気持ちにはなれなかった。
 所詮、部外者でしかない者が口出しして良い話でもないし。
 その行いを非難できる立場でもないのだが。

「……どうか、未来の彼女にも労りと安らぎがあらんことを……」

 誇り高い、少し間抜けなエルフの少女の笑顔を思って。
 クロスツェルは、閉ざされた世界樹の森に密やかな祈りを捧げた。


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