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逆さの砂時計
魔窟の森 3
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を下げる。
 長も一つ頷いた。

「長……っ 貴方は……なんということを……!」

 ガクガクと四肢を震わせるネールにも、長はゆったりと微笑む。

「ネール。この二人を、森の外まで案内しなさい」
「長!!」
「聖樹を護る為に必要なことだ。この二人を死なせてはいけない」

 護る為。
 その言葉にネールは唇を噛み、苦々しくも頭を下げた。

「……行くぞ」

 立ち上がり、長に背を向けて、来た道を引き返していくネール。
 不機嫌なベゼドラと、長に一礼したクロスツェルも、その後に続く。

「幸多き未来を」

 長は静かに、三人の背中を見送った。



「なんじゃ、お主ら? 長に処分されたのではないのか」

 巨木の根を降り、魂の列と柵を越え、建築物の近くまで戻ったところで。
 元気いっぱいに走り回っていたリーシェが、三人に駆け寄ってきた。
 手に持っているのは、見るからに年季を感じさせる(くわ)
 どうやらリーシェは畑を耕していたらしい。

「二人を森の外に送ってくる」
「そうかそうか。やはり獣に肉を喰わせるわけじゃな……って、なにぃ!? ()の外ではなく、()の外じゃと!?」

 いちいち大袈裟に反応するリーシェを見ると、なんとなく癒されるなと、クロスツェルが目を細めていると。
 数歩先に居るネールが、凄まじく敵意溢れる眼でクロスツェルを睨んだ。

「何故じゃ!? 人間は例外なく始末せねば、森が! 里が! 聖樹がっ!!」
「リーシェ。長の決定だ」

 ネールがリーシェの肩を軽く叩いて、その脇を通り過ぎる。
 彼女はけろっと態度を改め。
 そうか。長の決定か。ならば仕方ないの!
 と、笑いながら畑仕事へ戻っていった。

「……アイツ、まじウゼェ」

 里に入ってから妙に大人しいベゼドラが、両肩を落としてため息を吐く。
 もしかして、本当に『聖なる気』とかに当てられてたりするのだろうか。

「一番若いエルフだ。まだ落ち着きがないのも仕方ない」

 ネールは二人に顔を向けることもなく、スタスタと先を歩いていく。
 一刻も早く、二人を里から追い出したいようだ。

「若いっつったって、とっくに百年は生きてんだろ? どうせ」
「ひゃ……?」
「来年で三百歳だ」
「さっ⁉︎ え、さ、三百……!?」

 思わずリーシェを二度見、三度見するクロスツェルに。
 ベゼドラが意地悪そうな顔で、にやりと笑う。

「見た目じゃ分かんねえだろ」
「え、ええ。意外です」

 とても楽しそうに土を耕すリーシェ。
 その笑顔は、無邪気な少女そのものだ。

「三百、ね。にしたって、ずいぶん甘やかされてる感じだが」

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