暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
魔窟の森 3
[3/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
理由も無い筈だ。

「貴方が言った通り、避けられる争いなら避けるべきだと思ったからだよ。僕達は神々に仕える民ではあるけれど、それ以前に創造神の作り物。悪魔もまた然り。ならば、害意無き者に敵意を示すは、真の愚行だ」

 どうやら、ネールの記憶を通してクロスツェルの説教を聴いたらしい。
 長は可愛らしくにこっと微笑み、クロスツェルから手を離した。
 そして、人差し指をクロスツェルの前に立てる。

「貴方にこれを授けよう、クロスツェル。きっと貴方達の旅に必要な物だ」

 しゃらしゃらと、鈴の音にも似た軽やかな音色を引き連れて。
 長の全身から溢れ出した虹色の輝きが、その指先に丸く集まっていく。
 拳程度にまで大きくなった輝きは、傾けた指先を伝い。
 クロスツェルの胸の中へと、溶け込むように消えた。

「これは……?」

 長い髪を器用に逆立てて驚きを表現しているネールと。
 ちょっとびっくりしたらしいベゼドラの気配を背中で感じながら。
 クロスツェルは自分の胸に手を当ててみる。
 見える場所にも、心拍や呼吸にも、特に変化はない。

「アリアの力に敵う物だよ。使い方は自然と理解できる。僕達エルフが代々護り継いできた大切な宝物だから、大事にしてね」
「そんな大切な物を、どうして私に?」

 腕を下ろした長は目蓋を閉じ、口元だけで弧を描いた。

「アリアを迎えにきたらしいあの男を止められるのは、現代のこの世界にはアリアしか居ない。そのアリアを僕達側に引き留められるのは、貴方達だけだと思うから。特にクロスツェル。貴方は、彼女にとって重要な立ち位置に在る。まさしく『アリアの鍵』だ」
「!」

 ベゼドラの目が丸くなる。

 『記憶を読んだ』と言っていた。
 つまり長はクロスツェルを通して、魔王と呼ばれた悪魔の再来を知った。
 かつて世界を脅かしていた者の再来を。
 だから、世界の脅威と対峙する為の物を、クロスツェルに与えたのか。

「世界を救えとか言うなよ、白蟻(しろあり)。俺達は、ロザリアを取り戻せればそれで良いんだ。他の奴らなんぞ知ったこっちゃねぇぞ!」
「知ってるよ、ベゼドラ。でも、貴方達が彼女を取り戻すつもりなら、あの男は絶対に邪魔をする。そうでなくても、貴方達の存在の大きさに気付いてしまったら、男は貴方達を殺しにくるよ。アリアと再会する前に死にたくはないでしょう?」

 貴方達は弱いから。
 言外にそう言われたベゼドラは、苛立ちながらもそれ以上反論できない。
 魔王に叩きのめされてしまったことは、誤魔化しようがない事実だ。

「……ありがとうございます。さすがに世界の命運まで背負うつもりは一切ありませんが、活用はさせていただきます」

 クロスツェルはにっこり笑って長に頭
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ