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逆さの砂時計
魔窟の森 3
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 太い幹を上へと目線で辿れば。
 里の上空はすべて、この巨大な一本の木の枝葉が覆い尽くしている。
 いったい何千年生き続ければ、これだけの巨木に成り得るのか。
 クロスツェルには想像もつかない。

「聖樹は……そうだな。どれほど無知に成り下がった人間であっても、かの御名くらいは聞き覚えがあるだろう。世界の中心で、世界中に清らかな気を循環させている神聖なる息吹。それが、この『世界樹』だ」
「『世界樹』? アリアを産んだとされている、あの『世界樹』ですか?」

 アリア信仰の神父だったクロスツェルは、当時その名前を毎日見ていた。
 ベゼドラ曰く虚飾だらけの教典に、アリアを産み出した聖なる母であり、世界を支える巨木であると書かれていたのだ。

「あの女を産んだ……? まさか。あの女は、どこからともなく突然現れた紛い物。聖樹との関わりなど、ありはしない」

 そんな伝わり方をしているのか、嘆かわしい。
 と、足早に世界樹の元へ向かうネールを追って、二人も足を早める。

 大きすぎて近くにあると錯覚していたらしい世界樹の根元へは、それからしばらく歩いて、ようやく辿り着いた。
 地表にうねり出た根をいくつか登った先で。
 幹に背中を預けて建っている、小さな石積みの祠を見つける。

「連れて参りました、長」

 祠の手前で(うやうや)しく片膝を突くネールに反応してか。
 祠の中で目を閉じたまま胡座(あぐら)の姿勢で座っていたエルフが、わずかに顔を上げる。

 見事なまでに、ネール達と同じ色彩、同じ顔、同じ体格。
 だが、髪の長さがネール達とはあまりにも違いすぎる。
 祠の中が、小さな体と大量の髪でぎゅうぎゅう詰めだ。
 そのうち髪の量で体が追い出されるのではないか? と思うほどに長い。
 日々のお手入れなどは、確実にしていないだろう。

「人間。こちらへ」

 長がクロスツェルに手を伸ばした。

 一瞬驚いたネールが姿勢を崩しそうになるが、すぐに正す。
 その横をすり抜けたクロスツェルが長の手を取り、片膝を突く。

 しばらくの沈黙の後、長は静かに目蓋を持ち上げ。
 虹色に輝く虹彩で、不思議そうな表情のクロスツェルを見据えた。

「語る必要はないよ、クロスツェル。貴方の記憶は、世界樹が読んだ」
「え?」
「貴方はアリアに命を救われたのだね。証こそ無いが、アリアの力は確かに天神(てんじん)の一族と同じ物。彼女に救われた貴方から力を感じるのは当然だ」
「……『世界樹』と長様が私の記憶が読めるのでしたら、何故、ベゼドラを里に招いていただけたのでしょう?」

 クロスツェルは、ベゼドラが居ないと説明が難しいと言って押し切った。
 口頭での説明を必要としないなら、同行を許す
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