16部分:第十六章
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でしてね」
その切れ長の目を微妙に歪めて笑った。口元も微かに歪ませている。
「私は今その人を探しているのですよ」
「それ程魅力的な方なのですか」
「はい」
沙耶香は答えた。
「あまりにも魅力的で。追わずにはいられません」
「それはまた」
シスターもそれを聞いて笑った。
「素晴らしい方なのでしょうね」
「こちらにその人がいるかな、と思ったのですがね」
沙耶香はその目を歪ませたまま言った。黒い目にシスターの姿が映っている。
「残念です。おられないとは」
「若しかすると近くにおられるかも知れませんよ」
「すぐ側にでも」
「さて、それはどうでしょう」
シスターはそれには思わせぶりに笑って返した。
「人は会いたい時にはいないもの」
そして言う。
「探せばいないものですからね」
「そして探し出した時には」
「その手の中に収めてしまうのに限ります」
「全く同感です」
口元の歪みをさらに高めて言った。
「そしてその手に抱かなければね」
「手の届く場所に置いておかなければ」
ここでは意見は食い違った。
「なりませんから」
この言葉は同時であった。ニュアンスも一緒であった。そうした意味で二人の結論は同じであった。だがその方法と欲望が違っていたのであった。
「それでは」
「はい」
二人は挨拶の後擦れ違った。黒と黒の服が交差する。そして影も。二人は互いに擦れ違い振り返ることはなかった。しかし影は残っていた。
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